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夕方近くに大沢はチャイムで起こされた。
二日酔いの最悪の気分でぐらつく頭を右手で押さえながら玄関まで出ると同僚の田村だった。
「お。悪い。電話しても出ないから直接来た。仕事手伝ってくれ」
ばか言うな。見てわかるだろうが。仕事どころかまともに歩けもしないんだぞ、と口に出すことすらできないのに、田村は勝手に部屋に上がりこみ、大沢の仕事着一式と道具、作業靴まで取り揃えて、大沢を拉致した。
現場までのトラックで作業工程を聞かされたがまったく頭に入らない。
現場では体が覚えている作業を体が勝手にこなしていた。
大沢はただただ倒れなければそれでいいと、それだけを考えていた。
無事作業が終了して、お疲れさ~ん、と田村に背中を叩かれて、戻しそうになり堪えた。
「晩飯おごるわ。迎え酒もアリだぞ!」
聞きたくない。
「つぅか昨日、どんだけ飲んだの?」
トラックに戻り、田村が訊いた。大沢は返事もできない。
「つぅかお前さ、本社の浅井さんと付き合ってんだろ?それをさ、浅井さんも来てる二次会で栗尾お持ち帰りってどうよ?」
うう、なんでお前が俺と浅井さんのこと知ってんの?と、気持ち悪さに耐えながらも疑問には思った。
浅井ももちろん誰にも発表してないが、大沢もまだ誰にも言っていなかった。
なにしろ先週一度デートしただけの間柄で、クリスマスの約束をとりつけただけの間柄で、しかも今のこの状況を思えば先に続けられる自信もない。
だから大沢は返事をしなかった。
トラックを本社の駐車場に停め、歩きながら田村が続けた。
「だいたいあのおばちゃん、若いのが好きなんだって?
何でお前がそれに引っかかってんのか不思議だけどよ」
あ?……なんだそれ?
「てかお前だって若いってだけでおばちゃんに目つけられたんだろ?」
……それ、誰に聞いたんだ?
痛みは引いたがぼんやりする頭を支えて、大沢はむかついている胃がさらにむかついてくる気がした。
「お前ってそんな趣味だったっけ?意外だよな。面食いのくせにさ」
笑いながら田村が店の引き戸を勢いよく開いた。
ほぼ同時に、あっ!と甲高い声が聞こえた。
「あっ!すいません、」
ちょうど中から客が出てくるところで、田村がぶつかりそうになったのを謝った。
「いえ、大丈夫です」
その声にも聞き覚えがあった。
しかし大沢はそれよりも、その後ろに立つ女性の姿に息を飲んだ。
浅井さん。