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「僕を好きって言う人は、たいてい僕の顔が好きなんだ。
違うって反論されてもだめなんだよ。僕がそう思いこんでるからね」
あら。私も好きよ。
「だから、好きって言われるだけでもう信用できない。
僕の中味が好きだって言われても信用しない」
あなたの中味も好きよ。
「相手に悪いとも思わないしね。
僕を好きだっていう相手は信用しない。
僕がそう決めた」
あら。
浅井は心の言葉を全部飲み込んだ。
「だって、僕は自分の顔が嫌いなんだ。
その嫌いなものを好きだって言う人と、気が合うはずないよね」
あ。なるほど。
「僕がそう決めた」
笑う君島を見て浅井はまた苦笑した。
それならどうして、信用しない相手と付き合ったりするの。
その質問も飲み込んだ。
君島君には笑っていて欲しい。
特に今は。
思った以上に複雑な男の子。
同情なんかしないけど、余計なことで傷付いて欲しくはない。
こんなにも綺麗な笑顔を持っているんだから。
……って言うと、嫌われるのね。
気をつけよう。
「もうすっかり寒いね。枯葉も落ちちゃってるね。
ね、ちょっと早いけどご飯食べに行かない?鍋」
君島がベンチを立ち上がって言った。
「鍋?」
「寒いから」
「鍋ねぇ~。そういえば会社の近くに美味しいところがあるわ」
「そこ行く。決まり。って、浅井さんってどんな会社に勤めてるの?」
「え?あれ?言ってなかった?って、そういえば君島君だってどこの大学?」
「あれ?言わなかった?大学じゃないよ。看護学校」
「あら!看護師さん?」
「の卵」
「え~!初めて聞いた!」
「浅井さんは?」
二人で歩きながら、あそこのコンビニの向かいのビル5階にあるオフィス、と指差す。
そのコンビニで右に曲がって5分歩くと、美味しい鍋屋さん。
「こっちの方は来たことないよ。穴場だね!」
「オフィス街だもんね。あんまり知られてないかもね」
そうかぁ~!じゃあ今度友達に教えよう!
ん?数少ない友達に?
そうそう。
二人で笑いながら引き戸を開けて、元気な声に迎えられた。