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浅井が立ち木から離れ、君島の横にしゃがんだ。
「僕だって彼女を利用してるしね」
君島は浅井を見ずに続けている。
「だから僕は、」
浅井が被せるように言葉を続けた。
「だから彼女たちが嫌いなんでしょ?」
言葉を奪われた君島が、浅井を見下ろした。
やっと目があった君島に、浅井が微笑んで言った。
「だから嫌よ。彼女たちの一員になるのは」
君島が一瞬目を丸くして、その目をぐるりとまわしてから、あ、と息を吐き出した。
そして髪をかきあげて空を仰いでから浅井を向き直って言った。
「だから、真ん中省略しないでよ!」
君島は、赤い目のまま笑っていた。
今は省略してなかったでしょ?と浅井が言うとさらに笑った。
ざっくりカットしてるよ。まったくもう。
笑いながら君島もペットボトルを開けた。
その笑顔にほっとして、浅井が立ち上がったのだが、足首がバキっと鳴った。
君島がまた吹きだして、運動不足だよ!とさらに笑った。
そのあとしばらく笑い続けた。
笑いすぎよ、と浅井が抗議しても君島は笑っていた。
君島君を見て微笑んだ私の表情が、彼女たちに似ていたのかも知れない。
反射的に君島の笑顔が凍ったのかも知れない。
そう思いながら、浅井は暖かいお茶を両手で握った。
この子は笑っている方がいい。
こんなふうにキラキラ光る笑顔が一番いい。
そしてしばらくして、君島が浅井を見上げた。
「浅井さんは、変な人だね」
失礼ね、と笑顔で睨む。君島が笑ったまま続けた。
「こんな話聞かされても、引きもしなきゃ同情もしないんだ」
浅井は笑顔を引っ込めなかった。
君島も笑顔でそれを覗き込んだ。
「僕の、友達にはなってくれるんだよね」
浅井が頷いた。
「僕ね、友達少ないんだ」
そんなネガティブなことを言いながらも、君島はやはり晴れやかな笑顔を見せる。
「しかもね、僕の友達ってのは、みんな友達が少ないやつらなんだ」
「そう。じゃあ資格充分だわ、私」
苦笑してまたペットボトルに口をつけた。
「それにね」
君島が、嬉しそうな顔で続けた。
「僕を好きじゃないって言ったしね。それで充分」