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一瞬で君島の頬が紅潮した。
それが解だった。
浅井は微笑んだ。
「帰るわ。またね」
そう言って踵を返した。
え!待って!と後ろから君島の声が聞こえていたが、かまわずドアを開けて店を出た。
走り去るつもりはなかった。
追いかけてこなければそれでもいいと思っていた。
「浅井さん!」
君島の高い声が聞こえた。
振り返ると、目を大きく開いた天使のような少年が、自分に向かって駆けてくる。
その表情は知ってる、と浅井は思った。
初めてコンタクトショップの鏡越しに見た顔と同じ。
女の子だと思った。可愛い女の子の困った顔。
ごめんなさいって謝ってくれたわね。
浅井は微笑んで、走ってくる君島を待った。
もうこれで最後だと思ったから。
「さっきの、どういうこと」
君島が浅井の目の前で止まり、訊いた。
私に言わせるの?赤くなったくせに。
そう思って笑った。
笑っていないと、涙が落ちそうだった。
「私を彼女たちと比べたんでしょ?」
あの冷えた瞳は、君島の彼女たちに向けられるものだ。
「私も彼女たちの一員になれるかどうかの試験だった?」
浅井も大沢という相手を得て、その資格は充分だったのだ。
「ならないからね。私、そんなに君島君好きじゃないよ」
もしあの冷えた瞳を見てなければ、今頃どうなっていた?
「友達にしかならないから」
どうにもなっていない。私はこの子を利用したりしない。
「それがだめなら、ここでお別れ」
この子とそんな付き合いは、したくない。
「そういうことなの」
この子にそんなふうに利用されたくない。
悪いことだろうか、と来る前には思っていた。
冗談じゃない。
この子をそんなふうに利用したくない。