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昼過ぎに、先日会社帰りに一緒に寄った喫茶店で君島と待ち合わせすることにした。
メガネをやめてコンタクトにしたのだが、大沢に悪い気がしたのでスカートはやめた。
それでも君島に会うのが後ろめたい気がしている。
連絡してこない大沢君が悪い。
昨日だってあんなふうに、栗尾さんと帰ったんだし、
私が今日誰と何をしようと、
と思いつつも、やはりすっきりはしない。
なんなんだろう、一体。
もしかしたら大沢君って、ずいぶんイメージと違う人なのかも知れない。
そんなこと考えててもしょうがない、と浅井は首を振った。
定期で地下鉄に乗り、駅で降りて徒歩5分。
大きな窓の開放的な喫茶店で、君島はもう窓際の席に座っていた。
外から見ても目立つ華やかさ。花をあしらうよりも窓が豪華に見える。
きっとその効果を狙ってお店の人がそこに案内したに違いない。
そんなことを考えて、浅井は笑った。
その視線に気付いたのかどうか、君島が顔を上げた。
そして微笑む浅井を見て、一瞬冷えた笑みを見せた。
見間違いかと思えるほどの短い瞬間。
すぐにいつもの華やかな笑みに変わったので、浅井も微笑んだまま喫茶店の入り口に向かった。
しかし、さっきの君島の笑みが頭から消えない。
あの凍った瞳。
君島の冷たい視線に射られたせいで、浅井の頭もすっかり冷えた。
一歩一歩歩きながら、頭の中に貼りついたさっきの笑みを凝視して、一つ一つその意味を剥ぎ取る。
美しい笑顔だった。
初めて見たなら。
しかしあんな冷たい視線を、浅井は一度も向けられたことがない。
誰に向ける目か?
誰に向ける目を、私に向けたのか?
浅井は推論を一つ、導いた。
それが解かを知る問いも、思いついた。
喫茶店のドアを開け、近寄ってきたウェイトレスに、
「待ち合わせ。お水もいらないわ」
と断り、大股で君島の座る窓側の席まで進んだ。
様子の変わった浅井に驚き、君島が立ち上がって
「どうしたの?」
と訊いた。
そして浅井も訊いた。
「私を、試した?」