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JOY  作者: co
第4章・枯葉の公園
32/130

 週末だと言うのに大沢からの連絡がない。

 クリスマスまであと10日。

 浅井はコタツに入って赤いマフラーを編んでいる。


 昨夜は大沢と栗尾が先に店から消えた。

 同行した全員が実は大沢と浅井のことを知っていて、それを知らない素振りをしていて、しかも栗尾の大沢に対するアプローチも周知の事実で、その二人が早々に消えたということをサカナにこの後も飲みたいのに、浅井の前で口にできる話題ではない。

 他に話題がないだけでなく非常に会話もぎこちなくなり、そのまま盛り下がって忘年会はお開きとなった。


 浅井はその後何度も大沢の携帯に連絡したが、電源が入っていないと返されるだけだった。


 いらいらしながら編み目を増やしている。

 考えたくないと思いながらも他に思いつくこともない。


 栗尾さんと二人で消える?

 大沢君、否定してたわよね?

 そうじゃないのなら最初から言えばいいだけのことじゃないの。

 胸の中でブツブツと文句を言いながら編み目を増やしている。


 それよりも栗尾が浅井の隠している過去を知っていることが不気味だった。

 なぜ知っているのか、何をどこまで知っているのか、何が目的なのか。

 わかるはずもなくブツブツと悩みながら編み目を増やしている。


 だけど、何を言われても無視しよう。

 どんなふうに引っ掛けられても、先輩のことは口にしない。

 あんなふうに、酔ったはずみで話題にするような、

 先輩はそんな人じゃない。


 悔しくてたまらない気持ちをごまかすために、浅井は編み目を増やしている。



 ブツブツとマフラーを伸ばしていると、コタツの上に乗せた携帯が鳴った。

 すぐに取り耳に当てると、

「ごめん。君島です。今いい?」

 と高い声が聞こえた。

 浅井は思わず笑って、ベッドに背中をもたれて答えた。

「うん。いいよ。今一人だし」

「え?一人?なんで?土曜日なのに?」

 声を上げて笑ってしまった。

「あなただって土曜日にどうしたのよ?たくさんいる彼女は?」

 納得はしていないものの、事実なので君島に突きつけると

「だからさ。彼女たちには亭主とか彼氏とかがいるんだよ。基本的に僕は土日フリーなの」

 呆れて天井を見上げた。

「あれ?もしも~し!」

 言葉がないよ、君島君。と、また浅井は笑った。

「あはは。言葉がない?」


 君島君と付き合う女たちは、寂しいのかも知れない。

 笑いながら浅井は思った。

 見捨てられた自分をごまかしたくて、君島君を利用しているんじゃないだろうか。

 そういう気持ちは、あるのではないか。


「浅井さん、ヒマなら出てこない?」

 私が今君島君に会いたい気持ちと、何が違う?だとしたら、会えない。

「この前借りた本、面白いね」

 会う理由がない。

「続きを読みたいんだけどさ、自分で買う気にはならないんだよね」

 だって私たちは、

「浅井さん、買うでしょ?今日買って先に僕に貸して」


 ……は?


「じゃないと借りた本返さないよ」


 うっかり爆笑した。

 完璧な理由を作られてしまった。

 これじゃしょうがなく会いに行くしかないじゃない。

 なんて上手なんだろう。


 もしかしたら君島君の彼女たちも、こうやって引きずられたんじゃないだろうか?

 君島君は、お互いに利用しているのだと言った。

 私もその一人になるのだろうか?


 それは、悪いことだろうか?

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