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その浅井を、店から出てきた大沢と、それについてきた栗尾が見ていた。
そして浅井が振り返って店に戻る前に立ち去った。
「浅井さんって、年下が好みなのね。大沢君も気をつけなきゃ!」
二人のことを知っていて、栗尾が警告する。
「でも若いってだけで好みに全然共通点がないのよね。大沢君だって若いんだから毒牙にやられちゃうわよ!」
鬱陶しいな、と大沢が言いかけた時に、栗尾が声を潜めて続けた。
「でも、気持ちはわかるわよ。だって最初の彼と不幸な別れ方したじゃない?もう年上が怖いって思ってもしょうがないのよね」
探偵に頼んでいた浅井の調査がこんなに早く届いたのは、新聞に名前が載っていたからだ。
生まれ故郷での詳細な調査はまた後になるが、今回の報告だけでも浅井の衝撃的な過去が明らかになり、栗尾は満足していた。
ただ少しの嫉妬は感じていた。
悲劇のヒロインのような物語に。
「情熱的だったのよね。浅井さん、若い頃は」
大沢は驚いていた。
自分には内緒と言って隠した過去を、栗尾には伝えている?
「浅井さん、今でも好きなんだと思うわ。だって今でもその時の彼の話、よくするもの」
もちろん嘘だ。浅井は過去の話を一度もしたことがない。
こんなに激しく美しい過去を持ちながら、一人で秘めている。
そのことすら美しい。
そして栗尾にはそれが許せない。
その自己陶酔をぐちゃぐちゃに踏み潰してやる。
大沢を別の店に誘い、栗尾は滔々と浅井の過去を物語った。
それを拒む勇気は、大沢にはなかった。