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JOY  作者: co
第3章・琥珀のバー
28/130

「名大……?」

 大沢が、囁きのような掠れた声で繰り返した。

 隣で顔色を失って呆然としている浅井を覗き込んで、栗尾が笑った。

「そう言ってましたよね~?浅井さん」


 言っていない。

 履歴書にも書かなかった。

 それをなぜ


「まじで?」

 大沢が硬い作り笑顔で浅井に訊いた。

 浅井はその顔も見ずに俯いていた。


 思い出したくない。

 話題にされたくない。

 だから隠していた。

 誰にも知られていないはずなのに。


 笑ってごまかすタイミングも逸した浅井は、それでもなんとか笑みを作り、首を振りながら椅子から降りた。

 やっぱり私は場違いだったわね、という顔で財布から一枚札を出してカウンターに置いて去ろうとした。


 直後に大沢の声がした。



「あんたさ、この前死んだネコ始末しただろ?」



 周囲がシンと静まった。

 浅井も驚いて振り向いた。


「国道で轢かれてぐちゃぐちゃになったやつ」


 えっ……と栗尾もひきつった顔で呟いた。

 バーテンは無表情に大沢を見下ろし、いえ、と答えた。


「あんただよ。外に止まってるバイク、あれだったよ」

「違います」

 やはり無表情にバーテンが首を振った。

 店内の全員が注目している。

 天井のスピーカーからピアノ曲が流れていた。


 浅井は全身が熱いような冷たいようないたたまれない気持ちになり、慌てて大沢の腕を引いた。

 大沢はそれを振りきり、大きな声を出した。


「その手で、ネコ始末したんだろ?」

 浅井がまた大沢の腕を掴んだ。

「その手で平気で食いもん作ってんだ?」


 大沢はもう浅井の手を振り払わなかった。

 それでも浅井は両手で強く掴んで、店の外に引っ張っていった。

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