7
バーテンは作業時間の短いメニューから用意した。
まずビール、次にステアカクテルのスクリュードライバー、最後に浅井のホワイトレディ。
材料をシェイカーに入れて上部を合わせて蓋をし、両手で持ち上げたところで栗尾が質問した。
「バーテンさんって、名大の生徒さん?」
バーテンは長い指を広げて俯いたまま上目遣いで栗尾を見て、
「そうです」
と頷いた。
わ~、すご~い、何部なの~?と更に訊き出そうとするが、バーテンは作業中は口を開かないし、結構くるくると細かい仕事も忙しそうにこなしているのでほぼ無視している。
大沢は敵意丸出しでバーテンを睨んでいた。
頭がよくて顔も声もいい。背も高い。もてるだろう。あのバイクはいいアイテムだ。
さらにいらいらを増していた。
浅井も、バーテンを観察していた。
手先が器用で動きにそつがない。
端正な顔立ちが冷淡に見えるのは切れ長のつり目のせいだろう。
少し長めの黒髪がメガネに掛かっている。
そして恐ろしく、寡黙だな。
浅井は笑っていた。
バーテンがホワイトレディを作り終えて浅井の前にコースターと一緒に置く瞬間を目掛けて
再び栗尾が訊いた。
「バーテンさん、専攻は?」
バーテンがまた、栗尾をちらりと見て答えた。
「工学部です」
栗尾が笑って、浅井を振り向き、大きな声を出した。
「え~!奇遇ですね~浅井さん!
浅井さんと同じ、名大工学部ですって!」