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JOY  作者: co
第3章・琥珀のバー
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「それで、この前のはどういうこと?」

 この後予定があって食事をするほど時間がないという君島に、まず一番訊きたいことを切り出した。

「あの追いかけてきたおじさんは?」

 君島はコーヒーカップに口をつけたまま、浅井を見上げた。

 可愛い顔してブラックなのか、と浅井は首を傾げてシュガーポットを開けた。

「教えないよ。内緒」

 カップを置いて君島が答えた。

「内緒って。あのおじさん、真剣に走ってたわよ」

「僕も真剣に走ったよ」

 砂糖もミルクも入れてかきまわしながら、顔を上げた。

「あの感じだと、あなた、あのおばさんの浮気相手とか?」


 冗談のつもりで笑いながら言った。

 君島は、何の反応もせずに、ただ浅井を見つめた。


「それと、間違われたとか……?」

 君島は、にやりと笑った。

「何?その笑いは?」

「うん。まぁ、あれじゃごまかしようがないよね。正解」


 浅井が絶句した。

「だから内緒って言ったのにな」

 君島はやはり笑っていた。


「なっ、なんで、人の奥さんなんか、あ、あの、出会うのが遅かったってやつ?」

 思わず顔を近づけて小さな声で訊いた。

 君島はフフフと笑う。目を伏せると長い睫毛がお人形のようだ。

 こんな可愛らしい子が、不倫?!

 あの時のおばさんはどんな顔だっただろう。思い出せない。思い出せないくらい凡庸な外見だった。

 どうしてそんなおばさんとこの天使のような子が、

 浅井が顔を顰めて考えていると、君島が軽く答えた。


「そんなんじゃないよ。

 それに相手はあの人だけじゃないしね」


 浅井は、絶句の上に息も止めてしまった。


「気にしないで。僕も相手も本気じゃないんだし」

 君島は笑って手をひらひらと振った。

「お互い便利に使ってるだけなんだ」

 浅井が首を振った。

「どうして、そんな、」

「うん。楽だから」

「楽、だなんて、そんなはずないじゃない」

「ううん」

 君島が一息ついて答えた。


「誰も束縛しないから、楽なんだ」


 その言葉を少し考えた。束縛しないから楽。しかしすぐ考えるのを止めた。

「楽でもなんでも、そんなことなんにもいいことなんかないんだから、絶対やめなさい!」

 君島はまた天使のように微笑んだ。

「僕のことなんか心配してるヒマないでしょ?もうすぐクリスマスなのに」

「ごまかす気なの?」

「だって僕、クリスマスの予定がないんだよ。浅井さんはあの彼氏と?」

「え、そうだけど」

「いいね。その袋は何かプレゼントなの?」

 あっさりと話題を逸らされた。

 そして君島が浅井の買った文庫本に興味を示したので、

 どうせマフラーを編み終わるまで読まないので貸すことにした。




 それを少し離れたテーブルで、事務員が聞き耳を立てていた。

 さすがに内容までは聞き取れず、二人でコーヒーを飲んでいたことを確認できただけだ。


 そしてそれはその夜には栗尾に報告されていた。






 夜に、大沢から浅井に電話が入る。

 会うようになってから、つまり先週の土曜日から、毎晩定時に電話が入るようになった。

 明日は忘年会ですね。

 そうね、そっちはみなさん参加?

 うん。社長も。本社は社長参加?

 社長は確か出張じゃなかったかなぁ。

 そうなんだ。俺本社の社長ってみたことないかも。

 そうね。私も何ヶ月も見てない気がする。

 いや、そんな忘年会よりさ、クリスマスですよ。

 え?

 え?忘れてんの?

 忘れてないけど、そういえば詳しい予定は決めてないじゃない?

 ああ、大丈夫です。俺が決めてます。

 へぇ。どんなの?

 内緒です。

 内緒?

 あ、でもそんなに期待しないでください。


 毎晩電話で会話しながら、避けている話題があった。

 大沢はあのバイクの男。浅井は君島のこと。

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