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会社帰りに浅井は、赤の毛糸と編み物の本を買った。
クリスマスまではそう時間がないので、マフラーくらいしか編めないだろうと思う。
昔から編み物は好きなので、当分これに掛かりきりだと思うだけで嬉しかった。
そして一人で街を歩きながら、君島のことを思い出していた。
携帯の番号を訊きだした日に、帰ってからすぐに電話したのだ。
しかし取ってもらえなかった。次の日も。その次の日も。そして今日もこれから掛けようと思っている。
というか、掛けなおしてよ、と思っている。
そう思っていたその時、携帯が鳴った。
歩きながらしゃべるのが苦手なので、歩道の隅に寄って立ち止まり通話ボタンを押して耳に当てた。
すると後ろから、「もしも~し」と聞こえた。
笑って振り返ると、予想通り君島が右手を上げて立っていた。
「何度も電話したのよ!」
「うん。知ってる。何度も電話もらったよ」
今日も白いダウンジャケット。相変わらず天使のように輝く笑顔だ。
「なんだかよく会うわよね。もしかしたら今までもよくすれ違ってたのかしら?」
「それはないよ」
君島が浅井の腕をとり、歩き出した。
「だって最初に会ったのがこのあたりだったから、ここで待ってたらあなたに会えるってわかってたし」
浅井がちらりと君島を見た。
「あら。待ち伏せしてた?」
ふふ、と君島が笑った。
「してない。たまたま通りかかったら、あなたがたまたま歩いてたから電話したの」
「そう。じゃあ私たちは相性がいいのかもね」
「そうだね。結構運命的な出会いかも知れないね」
笑いながらふざけた会話を続けていたが、それをまたしても同僚事務員が聞き耳を立てていた。
それに気付かず、二人は近くの喫茶店のドアを開けた。