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JOY  作者: co
第2章・赤と緑の街
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 帰りの車の中で浅井はクリスマスの予定を訊かれた。

 訊かれるまでもなくこれまでクリスマスにイベントがあったことがないので、首を振った。

「じゃ、空けといてください」

 大沢に真っ直ぐ見つめられて反射的に頷くと、大沢も満足気に頷いた。そして俯いたまま続けた。

「俺、本当に、本気です」


 運転する大沢をじっと眺めた。

 きれいな横顔だ。

 どうしてこの子が私を……?

 入社した時からって言ってたけれど……。

 今でも若いけど入社した時は20歳。

 その頃からもちろんこのきれいな顔だったのだけれど、

 その頃から私を見ていたというのは一体どういうことだろう?


「大沢君、私、あなたが入社した時って何かしたっけ?」

「は?」

「だって、うちの事務員ってたくさんいるし、私って目立たない方だと思うんだけど」

「あ、俺が、その、昨日の話ですか?」

「うん。あれ?でたらめだった?」

「いや、まさか。てか、やっぱ浅井さん覚えてないんすか」

「え?」

「俺入社して一発目で搬入ミスやったんですよ。それのフォローを浅井さんにしてもらった」

「んん?だって、それが私の仕事だし」

「そう。あの時もそう言った。俺が社長に怒られて謝りに言った時」

「だってそうだもの」

「いや、それどころかフォローしたことも忘れてたんだよ」

「え」

「お礼言ってんのに、何のこと?とか言って」

「あ、ごめん。忘れっぽいから」

「そう、それもあの時聞いた」

「それで?」

「それだけ」

「え?それだけ?ミスのフォローしただけ?」

 浅井が疑わしげに大沢を見上げた。

「そうです」



 ごめん、新人君の仕事なのにね。忘れてた。

 浅井はそう言って笑った。

 その笑顔が美しかった。

 大沢が見た浅井の初めての表情は、笑顔だったのだ。

 あれ以来ほとんど見ることはなかった表情を、大沢はずっと忘れなかった。


 そして、それ以上の表情を昨夜見せられた。

 それは結構ショックだったが、その勢いで今日があるのだし、今日一日ずいぶん楽しかった。

 クリスマスの予約もとれた。

 少しずつ、これからだ。



 夕方に部屋まで送ってもらい、手を振って別れた。

 一人暮らしで週末は家事もたまっているので夕食までは一緒にはしなかった。

 翌日日曜日も洗濯をしたり布団を干したり、一日家事に追われる予定。


 大沢と街を歩いて一緒に過ごすのは、悪くなかった。

 会話も楽しいし疲れなかった。

 やはり、私を好きだと言うのが今一よくわからないけど、まぁそういうこともあるのかなぁ。


 急に始まったことなので浅井自身まだよく自分の気持ちもつかめていない。

 多分、これから少しずつなんだろうな。

 浅井もそう考えていた。

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