4
「や!また会えたね!」
白いダウンジャケットを着た君島が浅井の腕を取った。
「へ?君島君?!」
「秋ちゃんって呼んで」
突然の出来事で、浅井はあっけにとられている。
大沢が出てくるのを待ちながら、周囲をぐるりと眺めていて、ダイナミックなランニングフォームで逃走している白い人がいるな、とは思っていた。
それが予想以上の速度で、浅井の腕を掴む直前までそれが君島だとはわからなかった。
「え?君、……秋ちゃん?」
「うん!待った?」
「へ?」
そして、君島を追ってきた中年の男女が息を切らして、声が届く距離まで追いついた。
「まて!小僧!」
君島がくるりと半回転して、浅井の陰に隠れた。
へ?とまた浅井が君島を見た。
「あんた、この、小僧の、なんだ?」
中年の男が浅井に訊いてきた。
話しかけられたことに驚いたが、それ以上にその口のきき方が不快だったので答えなかった。
「あんた一体、この小僧と、どういう関係なんですか!」
激しい息遣いの合間に怒鳴られる。
君島が苦笑して、浅井の前に出て男と応対しようとしたが、浅井がそれを右手で断って、言った。
「あなたに答える義務はないでしょ」
男が、なにを!とまた怒鳴りかけたが、女が男の袖を引いた。
「みっともないことやめてよ!普通のカップルじゃないの!何考えてんのあんたは!
私買い物に来ただけだって言ってるでしょ!」
「ふざけんなよ!この小僧前にも見たぞ!」
「私はないわよ。ごめんなさいね、お兄さん」
「いえ。いい運動になりました」
君島がにこりと答えた。
なにを!とまた一歩踏み出そうとした男を、浅井が睨んだ。
「邪魔しないで下さい」
君島を睨み続ける男を、女が引っ張って行った。
はぁ~、と君島が、荷物を降ろしたように肩を落とし、ため息をついた。
「何?今の」
「聞かない方がいいよ」
浅井の簡単な問いに笑って君島が即答した。
「そういえば昨日の彼氏は?もしかして今デート中?」
顔をしかめたまま浅井が頷くと、え、本当?僕がいちゃまずいね、と立ち去ろうとした。
「ちょっと待って。携帯ぐらい教えてよ」
君島がまた苦笑して、電話を取り出し、簡単に番号交換をして、じゃ、と右手を上げて走り去った。
「携帯なんか出して、どうしたの?」
直後に大沢が店を出てきた。
「うん。イタ電。ごちそうさまでした」
「あ、はい。いえ。イタ電って多いんですか?」
「ううん。そうでもないよ。大丈夫。あの、大沢君って、赤が好きなの?」
「は?」
「ブルゾン、派手な赤だし。結構赤系が多いよね?」
「ああ、そうかな。はっきりした色だから」
「黒は?」
「浅井さん黒多いっすよね」
「無難な感じだし」
よし、ごまかした。と浅井は頷いた。