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昼間でもクリスマスムードの街は煌びやかで、店の大きなウィンドウの前に鮮やかなポインセチアが並べられ、白いシクラメンもそれに沿い、濃い緑がそれを縁取る。
歩く人々も楽しげで、隣を歩く大沢も楽しげで、クリスマスマジックなのかなぁと浅井は分析している。
分析中に気付いたが、通り過ぎる女子がほとんど大沢に振り向く。
派手なブルゾンにゆったり目のブルージーンズ、長身小顔で短い茶髪。
ぱっと見で目立つ上に、じっくり顔を覗き込んでも黒目がちの整った童顔。
そうだった。大沢君は、事務所人気筆頭イケメンだった。その筆頭イケメンは、楽しげに延々と浅井に話しかけている。
浅井さん、歩くの速いっすよね。
いつもCDで買うんですか?
てか、トランス以外は何聴くんです?
浅井も考え事をしながらも、質問には次々と答えて、ビル8階にあるCDショップを目指した。
その二人を、会社の同僚事務員二人が見ていた。
やはり目立つ大沢に気付いて、声を掛けようと走り寄ってから女連れに気付き、
あら、やだ、大沢くんってフリーだったはずなのにどうして?誰あれ?
とその後をつけた。
身長はお似合いのサイズだけど、モデルみたいなスタイルだけど、かなりのロングヘアだけど真っ黒よね、きっとそのせいで顔も白く見えるし小さく見えるけど、でもほら全体的に地味な感じね。
と小姑のように判定した連れの女が浅井だと気付いたのは、昼前に喫茶店に入ってからだ。
テーブル一つ離れた場所を選び、二人の会話に聞き耳を立てていた時に、大沢が大きな声で相手の名前を呼んだのだ。
「え!浅井さん、ダフトパンク持ってんの?!」
事務員は、グラスを持つ手を離してしまった。ゴンと鳴ってジュースが少し零れた。
もう一人の事務員は、俯いて固まった。
しばらく無言のまま固まった後、二人はゆっくり目当てのテーブルの方を覗き見た。
そう言われればあの長身はまさにお局サイズ。
あれにメガネをかけて髪を縛れば、……
そうなの?今ちょっと想像できないんだけど、そうなのね?きっと?
でもたったそれだけで、メガネと髪だけで、人ってそんなに変わるもの?
事務員はその衝撃を受け入れるだけで疲労困憊し、食事を終えて出て行った二人をさらに追う気力を失っていた。
ただ、目ではそれを追っていた。
大沢が会計をして、浅井がそれを先に店外に出て待っている。
正にカップルですね。デート中のカップルですよね。
長い黒髪が風になびいて、細い指でそれを押さえている。ただそれだけの仕草が、モデル体型のせいか美しく決まって見える。
事務員たちは、それを目の当たりにするだけで脱力していた。
そのモデルのような浅井の元に、天使のような少年が駆け寄ってその腕を引いたのを見ても、
ああ、似合うんじゃない?
と、頷いた。
驚くのに疲れたのだ。