12
「君島君、本当は酔ってるでしょ」
「酔ってないよぉ!さっきのはさ、あいつがシツレイだったでしょ?」
「うん、まぁ確かに……」
「ね!それにさ、僕さっき浅井さんの真似したんだよ。気付いた?」
「え?何?」
「浅井さんてさ、説明の真ん中抜かすの。最初と最後だけ言うの。知ってた?」
「そんなことない。普通よ」
「ふふふ。ホントだよ。だから相手がついてこれないの」
その後離れた場所から、浅井さん!と大沢の大声が聞こえた。
「ほらね!今気付いたんだよ僕が言ったことの意味に!」
「え?何を言ったの?」
「あいつに聞けばいい」
「浅井さん!」
大沢が追いついて、浅井をまっすぐ見て呼んだ。しかし浅井がふと気付いた。
「大沢君、あなた栗尾さんに責任あるわよね?」
「責任?!」
あははは、と君島が笑った。
「それだよ、浅井さん。間の説明を飛ばしてる。ふふ。僕会計してくるね」
君島が離れた。
「栗尾は、その、悪酔いしてるんでこれから自宅まで送っていきますけど、浅井さん、明日、ヒマですか?」
「……え?」
「そんな、今日あったばっかりのヤツと飲めるなら、俺とでも飲めるでしょ?」
「は?」
「いつも、断るから、きっと俺が誘っても断るんだと思ってた」
「え?」
「明日。デートしよう」
「……ええ?」
「いいよね?」
浅井は急に不安になった。何しろはっきりとは見えてないのだ。つい振り向いてキャメル色を探した。
すると後ろからキャメルが近づきながら、浅井を通り越して大沢に言っていた。
「今さら?ていうか、失礼の上乗せだよね。浅井さんがメガネ外して髪下ろさなきゃキレイだって気付かなかったんだろ?」
「知ってたよ。お前よりずっと前から知ってたよ」
「ウソつけ。じゃあ、いつからだよ?」
「俺が入社した時から。だから3年前から」
「なにそれ?3年も片思いって?バカ?今どき小学生でもやらないよそんなの」
大沢が黙った。
「言えなかった。浅井さん、頭いいし、俺高校中退だし、誰が見たって釣り合わないって」
「なんだそれ?」
被せるように反論したのは、浅井だった。