5
ノックの後にドアを開け、浅井が現れた。
「あ!浅井さん!」
大沢の大声に浅井が一瞬怯んだ。
「ちょっと浅井さんと話があるから、田村出て行って」
大沢が続けて田村に言う。
「うっそ。個室でナニすんの?」
「内緒話。さっさと出て行けよ。お袋来たら教えろよ」
大沢君……と浅井が顔を顰める。
その横を田村がニヤニヤ笑いながら通っていった。
ベッドをリクライニングのように起こして大沢はクッションに背をもたれて、浅井さん、と手を伸ばしている。
「やっぱり腹が痛くてさ。あんまり力が入れられないから動けないんだ」
「じっとしててよ」
浅井が笑った。
「だから浅井さんがこっちに来てくれないと、俺は動けないんだってば」
「あ、待って」
窓際に佐々木社長の持ってきた花束が置いてある。
「その花、入れるものってないの?」
「今お袋が探しに行ってるところだから、置いとけばいいよ」
「そんなの、可哀想よ。萎れちゃうよ」
浅井が窓に寄って、花束を取り上げる。
そしてちらりと窓の下を見ると、曇り空の下の大通りを色々の色の塊が右から左に突っ走ってきて交差点の赤信号で急停止した。
唖然としてよく見ると、ライムグリーンのバイクにグレーのヘルメット、ブルーのブルゾン・黒のジーンズ、その後ろに乗る黄色のヘルメット・オレンジのブルゾン・ブルージーンズ。
バーテンのバイクに乗るバーテンと君島だった。
なんて派手な……。
グレーの空と街に映える赤のLED信号が青に変わり、派手な色々の塊はまた後続の車を取り残してあっという間に視界から消えた。
あの子たちは……。
浅井は笑った。
黄・オレンジ・青・緑・黒・赤……
虹になりそう。足りないのは何色?
笑ったまま浅井は花束を抱いて、病室についている小さな洗面台に水を張って、切り口を浸した。
それから大沢の方を向いた。