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そんなの親じゃないよ!という君島の言葉を心の真ん中に置いて、母の暴言を聞いていた。
「でもこんなに若い人に、うちの娘が……。それだけでもう、お恥ずかしい」
浅井は目を閉じて俯いた。
「いや、あの、そうじゃなくて、」
近くからそんな声が聞こえた。
「俺が、俺の方がずっと浅井さんを、いや、浅井さんに、いや、浅井さんを好きで、」
浅井が大沢を振り向いた。
「刺されたことも浅井さんには全然責任はないし、むしろ俺にあるのかも知れないし」
大沢はずっと浅井の母を見て訴えていた。
「だけど俺は、今二人とも助かったってことだけでも満足してます」
浅井は、胸がじわりと暖かくなるのを感じた。
自分が最初に安堵した気持ちと同じだ。
大沢君に助けてもらった。
その大沢君も助かった。
あの時と違う、その一点。
この気持ちは先輩にもらったものだ。
「そうね。それは確かに、そうですね」
浅井の母が静かに答えた。
「命があるのがなによりですね」
浅井は、心の底から驚いた。
母も先輩の時のことを言っている。
母はあの時先輩を罵った。
それを10年で反省したのだろうか。
あの言葉を悔いたのだろうか。
「そう言っていただけると私の方もありがたいです。だからと言って許されるとは思っておりませんが」
佐々木社長が頭を下げた。