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「娘がここに来ているそうですが……?」
「いるわよ。お母さん」
浅井が体に力を入れて答えた。
「あ、浅井さんのお母さんですか」
佐々木社長が振り向いたので、浅井が紹介した。
「佐々木社長です。私が、」
そこまで言うと浅井の母が走りより、また深々と頭を下げた。
「この度は娘の不始末でとんだご迷惑を、」
それを佐々木社長が遮った。
「いや、逆です、とんでもないご迷惑をおかけしたのはこちらで、娘さんに怪我をさせた上に親御さんまでわざわざ遠くからお越しいただいて本当に申し訳ないです」
「いえいえまさかうちの娘に迷惑なんて、置いていただいてるだけでもありがたいのに、」
浅井は唇を噛んだ。
「しかし実際、このようにお怪我までさせてしまいまして、これが完治するまで必ず私の方で保証しますので」
「え?でも娘の責任でしょう?」
「いえ、浅井さんには何の落度もないのにこんな怪我までさせてしまったので、」
「でも、娘がその、お腹の大きいお嬢さんのお相手と、」
「ああ!いや、それはもうお恥ずかしい限りですが、その」
佐々木社長が額を押さえた。
「全くの事実無根でして、浅井さんには全く落度のないことでこんな大怪我を負わせてしまったんですよ」
「え……?」
母が浅井を振り向いたので、浅井は母を半眼で見つめた。
そして母は、ベッドで上体を起こしている大沢に目をつけた。
「お嬢さんのお相手だったことには変わりはないでしょう?いい年して若い人に……」
そんなの絶対親じゃないよ!
君島の声が蘇る。
「いえ、それも違うんです。大沢君とも何の付き合いもないもなかったんですよ。うちの姪は」
「姪?!」
「そうなんです。私の姪なんですよ、今回の事件を起こしたのは……。本当に申し訳ありません」
浅井の母は、言葉を失い首を振り続けていた。
それもきっと、浅井を責める材料を探して時間を稼いでいるのだろうと、浅井は思った。