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「ああ、うん。そうなんだ。とんでもないことだよ。本当に申し訳なかった、大沢君。あそこまでバカな娘だとは思っていなかった。まさかこんな事件まで起こすとは……。うちの浅井さんも被害にあったらしくてそっちにも顔出さないとならないんだが、」
浅井はじっと佐々木社長を見ていた。
「じゃあ謝ったらどうだ?そこにいる」
田村社長が浅井を指差した。
「え……?」
「……はい」
浅井が返事をした。
「あ……?浅井さんか?ああ、気付かなかった!なんだ、見違えたな!」
「あ、はい、そう、でしょうか?」
「それは、その肩の包帯が、怪我か?縫ったりしたのか?」
「あ、そういえば知りません。気付いたら包帯が巻かれてたので……」
「そうか、申し訳なかった。あれは、栗尾は私の姪で、言いがかりで二人を刺したそうだけど、全く、」
「言いがかり?」
何人かが声を合わせた。
「……そうなんだろ?言うのも恥ずかしいが、大沢君の子供を妊娠してるんだとか勝手な作り話を自分で妄想して刃物振り回したって聞いたが」
「作り話?」
浅井と大沢の母が声を合わせた。
「ええ。私の妹が、栗尾の母ですが、今警察に行ってまして、事情を全部聞きだしまして、まぁ何と言いますか子供っぽい娘ですから、大沢君どころかまだ男性と付き合ったことすらないのに妊娠なんかできるはずもないですから、」
「え?」
大沢と浅井が声を合わせた。
「えって何だ?……それが作り話か?」
佐々木社長が顔を顰めた。
浅井は首を振って俯いた。
子供の本当の姿を知らない親って、少なくないのかも知れない。
私自身ずっと親には何もかも隠して生きてきたんだけど、私程じゃないとしても案外みんなそうかも。
浅井はふとそう感じた。
「とりあえず姪のことは警察で灸をすえてもらって、浅井さんのご実家に連絡させて、大沢君のところにも連絡させて、私も急遽戻ってきたところで、」
佐々木社長が花束を出した。
「急いでたから出来合いの花束二つ買って来たんだけど、どうもお見舞い用じゃないようだ・・・」
ユリやバラなどの芳香の強い花は普通お見舞いには向かない。
「菊よりはマシだろ」
田村社長が笑った。
「お前のジョークはブラックすぎる」
佐々木社長が苦笑した。