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「うん、まぁ、そうだな。正しいんだけどな、浅井さん」
田村社長が、言った。
「浅井さんはいつでも冷静だな。こんな時でもそんなに頑張るか」
浅井が首を傾げた。
「あんただって刺されてんだから、少しこう、痛い痛い!って泣いてもいいんだぞ」
「今はそんなに、泣くほど痛くはないので」
「そうじゃなくて」
田村社長が笑った。
「あんたはずっと頑張って来てるんだから、こんな時ぐらい泣き喚いたらどうだ?」
「泣き喚く?」
浅井が顔を顰めた。
「聞いた話じゃ、大沢がそっちの若い事務員とあんたを二股掛けてたってことなんだろ?で、向こうが妊娠したと。今寝てるけど、大沢の顔面殴ってみたらどうだ?」
浅井が吹き出した。
「そうね、それで気が済むってこともないでしょうけど、よかったら殴って?」
大沢の母まで勧める。
「いや、違うって!栗尾と大沢は付き合ってないって!」
田村が両手を振って話を訂正する。
「でも私、大沢君とは昨日今日の付き合いなので、その前に栗尾さんとそういうことになってたとしても不思議じゃないんですよ」
浅井が笑ったまま伝えた。
小さく
「……ひでぇ……」
と声がした。
全員が、ベッドに注目した。
「聡!!」
「大沢!いつから起きてたんだっ!」
「え?大沢君?」
「おい!寝たふりか!」
一斉に大声を出した。
「あんたはもう……!どんなにびっくりしたと思ってんの!」
また大沢の母が泣きながら、寝ている大沢の胸あたりを叩いた。
「いてぇよ……!俺怪我人だよ?」
「何いばってるのよ!自分が悪いんでしょ!」
「俺悪くない……!全然悪くないって……!」
大沢は本当に痛いので、声に力を込められない。