8
「バーテン君は、私の神様ね」
「は?」
バーテンが怪訝な顔を向けた。
「君島君が、私の天使なのよ」
「うわ……」
バーテンが顰めた顔を背けた。
「本当よ。今日二人がここに来てくれなかったら、私どうなってたか……。って、そういえばどうしてここにいるの?」
「ああ、君島の携帯にあなたの携帯から着信があったそうですよ」
「私の携帯?」
「会社の誰かが勝手に掛けたんでしょう。あなたが病院に運ばれたから、親しい人間に伝えてくれと言われたそうです」
「ああ……」
携帯には会社の知り合い以外の番号は「秋ちゃん」と登録してある君島のものしかない。
「そう……。それで、バイクで?」
「はい」
「1万円?」
「……2千円」
「安っ!ずるい!」
「……あの時はあなたが勝手に値段を吊り上げたんです」
「そうだけど!君島君は交渉上手なのね」
「しつこいんです。とにかくしつこいんです。俺が根を上げただけです」
様子が目に浮かんで、浅井は笑った。
久しぶりに笑った。
前もそんなこと感じたことがあった。
たしかそれも、バーテン君のことだった。
「本当にありがとう、バーテン君」
「あの、俺の名前は原田だと何度か言ってますが」
「そうね。ありがとう、原田君」
「君島置いていきましょうか?」
「え?あなた一人で帰るってこと?」
「あいつまだあの怖いお母さんを引き止めてるんじゃないですか?」
「あ……。まだやってるのかしら?」
「いや、俺が見た時は受付の前で背中合わせに座ってて緊迫してましたけど」
「そう。……すごかったな君島君」
「お騒がせしました」
「ううん。私もあんな風に言えたらいいんだけど」
「言えないですか」
「難しい」
「君島の言葉真似したらどうです?」
「真似?」
「そんなの親じゃないよっ!とか言ってましたよね」
原田が君島の真似をしたので、大笑いした。
「そうね。まずそれね。ありがとう。頑張るわ」
「大変ですね。親がいるのも」
「そうでしょ」
またね、と原田に手を振った。
まずは大沢君に会おう。
浅井はまた走り出した。