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浅井はしゃがんだまま、首が痛くなるような角度でバーテンを見上げた。
「……いない?」
「はい」
「……いいなぁ」
浅井の言葉に、バーテンが吹き出した。
「そう言われるのは初めてです」
「あ、ごめん。そうか、ごめんなさい」
浅井が慌てて立ち上がり謝った。
「いや、構わないです。同情されるよりはずっとマシですから」
胸の中でなにかがピンと弾けた気がした。
「そう、同情されるより」
そう。私もそんな気持ちを目一杯張ってたことがあった。
背筋が伸びるような気がした。
この子も戦っているんだった。
何やってるんだ自分。
今、泣き言を言おうとしていた。
さっきまで愚痴めいたこと言ってないだろうか?
それが一番恥ずかしいことだ。
私は、それ以外に恥ずかしいことなんか何もしていない。
地獄になんか堕ちるものか。
まだまだ戦うんだ。
私は戦える。
今までだって戦ってきたんだから。
地獄に堕ちるくらいなら一人で戦ってやる。
さっき弾けた何かに心を熱せられた。
そして自分に戻った。
ではさっきまで、心が凍っていたのか。