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やはりだめだ。説明以前だ。なにもかもわからない。わからないことしかわからない。
浅井はまた俯いた。
「あの……」
バーテンが呟いた。
「さっき聞いた限りでは、妊娠してるお嬢様の男をあなたが盗ったということでしたけど」
「そう……みたいなの……」
浅井が一度頷いた。
「みたいっていうのは?」
「わかんないのよ」
「わかんない。これだけの話だと要素は三つですよね?お嬢様が妊娠している、その父親がいる、その父親をあなたが盗った。まずお嬢様が妊娠しているのは確かですか?」
「わからない……けど、みんながそう言っているみたいだから……」
「それは証拠にならないでしょう。第三者の確認がなければ」
「警察もそんな感じだった」
「警察で検査でもしたんですか?」
「そうは言ってなかった」
「じゃ、その話はまだグレーです。次にその父親は、あなたと一緒に刺された男と言うことですか?」
「わからない」
「それもグレーだと、最後のあなたがその父親を盗ったという事はその二つの前提の上に成り立つものだから、この話は全部不確かで信用できるものではないです」
……!
「たとえ全部本当の事だとしても、どうしてあなたが刺されるんです?」
「え?」
「そういう事実があったら、あなたはその父親と、どうしますか?」
「別れる」
「でしょうね。だとしたら話し合いで済むことです。どうして凶器が持ち出されたんですかね?」
……!
「そのお嬢様に話訊かなきゃ何にもわかんないんだと思いますけど、訊いても何にもわかんない可能性の方が高いでしょうね」
「どういうこと?」
「話のわかる相手だったら凶器を持ち出さないからです」
「あなたでもわからないの?」
「俺、部外者ですし」
バーテンが笑った。
「刺された男の証言が次に重要でしょう」
大沢君
大沢君の証言