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「あ、君島連れて帰ります。お大事に」
バーテンがおじぎをして立ち去ろうとするので、
「待って!」
と浅井はバーテンの腕を取って廊下を走り出した。
「なんですか!どこに行くんです!」
「屋上!」
「はぁ?ここ1階ですよ!屋上ってなんですか!」
「ここから逃げる!誰もいないところに行く!」
「それなら!」
バーテンが浅井の腕をつかみなおして急停止し、言った。
「こっちの先が、入院病棟です。そこの渡り廊下はほとんど人が通りません」
そしてその腕を離してバーテンが歩き出したので、浅井はやはりバーテンの腕を取って走り出した。
「なんで走るんですか!」
「逃げるって言ってるでしょ!」
「何からですか」
浅井は返事をしなかった。
走って走って、渡り廊下に着いた時には息が切れていた。
そして病室から離れたせいか、運動して気が晴れたのか、少しすっきりしていた。
これなら頭もすっきりしてるかしら。
バーテン君に上手く説明できるかしら。
まだ口を開けて息をしながら、バーテンを見上げると、バーテンはさほど息を上げてはいなかった。
浅井が落ち着くのを待っているのか、場所が珍しいのか、あちこちに視線を飛ばしている。
「バーテン君」
浅井が声を掛けると、バーテンが浅井を見下ろした。
「あなたに、猫の時みたいな、簡潔な答えを、出して欲しいの」
「は?」
あ、だめだ。私全然すっきり落ち着いてなんかいない……。
「えっとね、説明するから、教えて欲しいの」
「何を?」
「何でもいいの。あなたの答え」
バーテンの答え。
猫のことを、俺が不愉快だったからやっただけで、猫のためじゃないです、と答えたバーテン。
きっと私の問題も簡潔に本質を掴んでくれる、浅井はそう思った。
「まず、私今日会社で同僚に刺されて、」
「ああ、さっき病室の外でだいたい聞きました。君島の声がでかかったんで」
「そう……?」
「で、それが?」
「……わかんない」
「え?」