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静かな病室に一人、残された。
浅井はただ呆然としている。
何か考えなければ、と思っても、何から考えればいいのかがわからない。
何があったのか、それがどういう意味なのか、誰に訊けばわかるのか、誰を信じればいいのか
何もかもわからない
せめて自分が今何を感じているのか……。
自分の姿を初めて見下ろした。
肩を裂かれたせいで肩と腕に包帯が巻かれて、病院の患者服を着ている。
やっと流れた涙に気付いて拭いた。
自分が今何を望んでいるのか、浅井は天井を見上げた。
何を望む……。
逃げたい。
ここは怖いから逃げたい。
私は逃げてばかり。
逃げたい。
怖い。
浅井はベッドを降りた。
自分の靴が壁際に置いてある。
それを履いて、病室の扉を開いた。
その扉の横に、バーテンが立っていた。