10
浅井は驚いて自分の頬に触れてみようとして、君島にその手を握られた。
「触らないで、コンタクトは僕が取るから」
そうか、涙でコンタクトが取れたのか。
そうか、泣いてるのか。
そう認めたら、次々と涙が湧いてきた。
なんだろうこの涙は。
「ああ、ごめんね、このコンタクトもう使えないんだよね、」
君島がおろおろしながらそんなまぬけなことを言う。
可笑しくて、笑った。それでも涙は止まらない。
なんだろうこの涙。
「僕、ハンカチもティッシュも持ってないよ。このペーパーナプキンでいい?」
君島がそれを浅井の頬に当て、涙を吸い取った。
またわずかに触れた指が温かい。
その、温かい手が、嬉しい。
温かい視線が嬉しい。
涙の理由なんてわかっていた。
私は寂しかったのだ。こんなにも。
「ごめんね~、浅井さん、今度また飲みに行く話、ナシにしないでね!」
浅井はまた声を上げて笑ってしまった。泣きながら。
こんな涙は初めてだ。
浅井は目を押さえて、涙を収めようとした。
笑ってごまかす方法はないだろうかと考えながらも、涙は止まらない。
今は嬉しいのに、笑ってるのに、どうして止まらないんだろう。
そしてその涙も、ずいぶん気持ちがいいのだ。
君島を困らせていることも、気持ちがいいのだ。
こんな涙は初めて。
ありがとう。君島君。
浅井は笑いながら、泣きながら、そんなことを考えていた。
その時、聞き覚えのある声が浅井を呼んだ。
「あの、……浅井さん、ですよね?どうしたんですか?」
大沢が二人のテーブルの横に立っていた。