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突っかかるような物言いをする女性警官を、男性警官が名前を呼んで諌めた。
女性警官はため息をついて、また訊いた。
「何があったのか、教えてください」
しかし浅井は、ほとんど何も見ていない。
気付けば自分の肩を裂かれて、脇にカッターナイフを刺された大沢がいた。
それだけなのだ。
「あなたの肩を切りつけたのは誰?」
「わかりません」
「では、大沢さんを刺したのは誰?」
「わかりません」
女性警官はまたため息をついた。
「目撃者も多数いますし、容疑者も逮捕されてますのでお教えしますが、栗尾萌23才があなた及び大沢聡を突然カッターナイフで切りつけたんです」
男性警官が言った。
確かに、あの時横に栗尾が立っていた。
向かいの席に座っているはずなのに、とあの時一瞬思った。
栗尾さんが、逮捕……。
砂利の音は、カッターの刃を出し入れする音だ。
「動機はわかります?」
また女性警官が訊いてきた。
浅井は首を振った。
「切られる覚えはないということ?」
え?と浅井が顔を向けた。
佐藤!とまた男性警官が女性警官を諌めた。
「知らない可能性だってあるだろ!お前の感情は抑えろって言うのがわからんか!」
男性警官は小声で言ったが、全部聞こえていた。
しかし、浅井は男性警官の後ろの、カーテンの隙間に、目を奪われていた。
世界が真っ暗になった気がした。
グレーのスーツを着た、母が立っていた。