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「土曜日の飲み会にお前来なかっただろ?栗尾から全部聞いたよ。だからそこにいたやつ全員知ってんだぞ。お前最低だ。栗尾の妊娠知ってから浅井さんのところに入り浸ってるんだってな?なぁ?他の女のところに逃げたって腹はでかくなるだろうよ!」
「待て!!!んなわけねぇだろっ!!俺栗尾となんかやってねぇよっ!ガキなんかできるわけねぇだろっ!!」
「まだ逃げんのかお前!」
「逃げるって何だ!何でお前栗尾の話を信用してんだよ?!俺ずっと浅井さんのところに行ってたんだ!いつ妊娠するんだよ?!」
「あっ……それは、その前なんだろ?」
「前っていつだよ?妊娠って何ヶ月だよ?!俺がいつ栗尾とやったってんだよ?!」
「あぁ……、あれ?」
「あれじゃねぇよっ!何だよその話は!」
「……栗尾が……」
大沢の背中がぞくりとした。
「え?まじであれ、栗尾の嘘?いや、嘘言ってる顔じゃなかったぞ?てか泣いてたし、俺だっててっきりお前が……」
大沢がトラックの鍵を田村に渡した。
「悪い。代わりに現場運転していって。俺あとでバンで合流するから」
「何?お前、」
「本社行く!」
大沢がキーボックスからバンのキーを外して走り去った。
田村はしばらくそこに立ち尽くして、今の会話を反復していた。
そして、何を信じたらいいのかわからなくなっていた。
自分自身が一番信じられないと思っていた。
大沢もバンを運転しながら、田村の話を反復していた。
繰り返すたびに恐怖が募った。
田村でさえ信じてしまう栗尾の話を、「そこにいたやつ全員」が信じたとしたら、今浅井さんはその全員に囲まれている。
そして当の栗尾がそこにいる。
それが一番、怖い。
栗尾は狂っている。
浅井さんはそれに勝てない。
浅井さんは、強くはない。自分はそれを知ったばかりだ。いつでもぎりぎりで一人で立っている。
もう傷つけたくない。
間に合うだろうか。
守れるだろうか。
大沢はアクセルをベタ踏みした。