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JOY  作者: co
第1章・キャメルの天使
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 思いがけない突然の質問だったので、浅井は反射的に頷いた。

 君島は真っ赤なままの笑顔で浅井を見つめ、続けた。


「ラジオで聞いた話なんだけどね、DJがど田舎ののど自慢の司会に行ったんだって」

 そう言って、彼はテーブルに目を落とした。

「自慢のZで行ったんだよ。赤いZ」

 グラスから落ちた水滴を指で、テーブルに「Z」となぞった。

 浅井はその君島の長い睫毛に目を奪われた。


「それでね、会場の公民館に時間より早く着いちゃってね、」

 私は、こんなに可愛くなかったな。浅井は、ふと笑った。


「Zをさ、適当な場所に停めて会場の下見してたの」

 可愛いなんて先輩が言ってくれただけだったな。


 それで充分だった。

 他に何もいらなかった。

 ずいぶん私は幸福だった。


 ふと、君島の声が止まっていることに気付き顔を上げると、それを待っていたかのように君島が笑みを見せた。


「でね、そのZが停めてあった場所が超ジャマな場所でね、運転手を館内放送で呼び出すことにしたの」

 君島がまっすぐ浅井を見詰めたまま語るので、浅井も目をそらせずに頷いて聞いた。

「だけどその公民館にいたのがおじいちゃんばっかりで、車見にいったのもおじいちゃんで、放送したのもおじいちゃん」

 浅井がまた頷いた。



「え~、お呼び出しもうしあげます、玄関前に停めてある、赤い~、ふぇあれでー(オツ)という車でお越しの方」

 滴で書かれた「Z」の最後を人差し指でピンとはねあげた。



 

 浅井が、ぶふっ!と吹き出した。

「うっ、嘘!そんなのっ……!」

 そう言ってから、あはははと大声で笑ってしまった。

「あ!嘘じゃないよ!」

 真剣に反論する君島も可笑しくてさらに笑った。

「ホントだよ!だって、外見てみてよ!」

「なによ外って」

 笑いながら、浅井は外の様子を見ようと顔を窓に近づけた。

「真っ暗で見えないわよ」

「見えてるよ」

「何が?」

「窓に映ってる。きれいな女の人」

「そんな、」





 そして浅井にも見えた、窓に映る頬を染めて笑う長髪の女性。





「きれいでしょ。髪縛ってたときもね、きれいだと思ったんだよ」


 その言葉にすぐには反応できなかった。自分のこんな笑顔を見るのは初めてだったから。


「髪を下ろすとゆるいウェーブなんだよね。それもよく似合うよ」


 困る……。こういうの慣れてない……。浅井は髪をかきあげて、困っていた。




「あなたは、きれいだよ」




 浅井は、笑うことにした。


「そんなこと言ったって何にも、」

 そう言って君島の方を向いた。

 直後に君島が叫んだ。



「だめ!」



 だめ、と叫んだ君島がぼやけていた。

 なにか白いものが目前に迫ってくる。


「ごめん!僕、あなたが、」


 君島の温かい手が頬に触れたようだ。

 まさか


「あなたがこんなに傷ついてると思わなかった……!」


 まさか私、




 泣いてる?





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