白い悪魔
あたしの名前はウサミ11才。
メルヘン世界のうさぎ村で暮らしてるうさぎちゃんだよ♩
みんなで仲良く楽しく暮らしていたら突然、ブラックホールが現れて村ごと異世界に飲み込まれちゃった!
転送先は地球っていうじめじめした世界でまじ最悪っ!
メルヘンの世界は永遠の夢の世界だから歴史っていう概念がないけど地球は誕生して45億年経過してて今は西暦1939年だって。
地球の支配者である人間はあたしたちに似てるけどぜんぜんちがう。
乱暴者で戦争が大好きみたい。
平和を愛するあたしたちメルヘン世界の住人とは大違いね。
あたしたちうさぎ族100名は馬の国の軍人に捕らわれちゃう。
注射打たれたり口の中を見られたりスポーツさせられたり微弱な電流を浴びせられたり、いろんな人体実験されたけど死人はゼロ匹。みんなじょうぶでよかった。
人間はあたしたちをなんだと思ってるんだろう?
あたしたちの存在は他国に秘密にされて立ち入り禁止の森の奥に移住させられた。
森の奥には草原があってそこでメルヘン村を再現してのんびり暮らしてる。
でも、あたしだけは雪に囲まれた戦場で戦争に参加させられていた。
馬の国は他国と戦争をしていて優れた軍人が必要だったのだ。
運動能力試験であたしは抜群のテスト結果だった。
視野は360°で視力もいいしチビで足も速いしジャンプ力もある。耳もいい。
オリンピックの金メダリストをはるかに凌駕する身体能力だ。
小柄な体格は、雪原に身を隠し、視認されにくい。
おまけに真っ白い。
長時間何もしないでじっと待つのも平気だし、天然の毛皮を身にまとっているから凍りつくような冬の環境下でも極めて忍耐強く敵の行動を監視・狙撃できる。
空腹にも強い。にんじん一本で3日は持つ。
雪の中でスナイパーとして戦うのにピッタリだと判断された。
あたしは嫌だったけど、村のみんなの命と引き換えだ。
安全な暮らしを提供してくれるっていうし、もとの世界に戻る方法も探してくれるっていうから軍人になることに同意した。
みんなには王様に気に入られて城の中でぜいたくな暮らしをしているって伝えてる。
馬の国は独裁者が支配する軍事大国で隣接する虎の国に戦争をふっかけていた。
合併吸収して領土を広げるためだね。
虎の国には龍の国とねずみの国も味方している。
連合国の戦力は馬の国とほぼ互角だ。
戦況は拮抗している。
馬の国の王様は2年前、隣国の牛の国に突如、侵攻して牛の国を支配した。
牛の国の人を「劣等」と見なして強制労働や隔離、インテリ層の虐殺など過酷な政策を実施したから各国の評判がとっても悪い。
牛の国を助けるために、虎・龍・ねずみの国は団結したみたい。
あたしは悪の帝国に手を貸していることになる。
でも、しょうがないよね。みんなを人質に取られてるんだからさ。
みんなはあたしが戦場で辛い思いをしているのを知らない。
みんなのところに帰った時はいつもニコニコしているから抱えている苦しみに気づいてもらえない。
これでいいんだ!って言い聞かせながら戦場で生きてる。
戦場のあたしはすっ裸だ。全身白いから迷彩になる。
息が白くて目立つから口に雪をふくんでる。
武器はスコープのついてないライフル銃。
スコープは使用しない。
スコープのレンズが太陽光を反射して位置が敵にバレるし、スコープを覗くために頭を上げる必要があり危険が増すからね。
武器の性能的に射程距離は約500メートルが限界だ。
あたしは腕がいいから敵兵をヘッドショットでガンガン仕留めた。
罪悪感はあるけど戦争だからね。
あたしもいつジビエにされるかわかんない。狩るか狩られるかだ。
撃つ時はいつも涙ぐんでしまう。
この人にも家族や兄弟がいるんだろうなぁ、と思いながらバキュン!
寝る前にはいつも命を奪った人に祈りを捧げた。
戦争が終わり平和が訪れるように神様に祈ってる。
野営地が突然、襲撃を受けた時は敵兵が接近してくる音に気づいて飛び起きて雪の中をぴょんぴょん走って逃げた。
みんなにも声をかけたけど全滅した。
全方位から雪崩のように敵兵が押し寄せてきた時は高い木の上にジャンプして敵兵が去るのを一晩中待ったこともある。
この時もあたしだけ生き残った。
狙撃だけじゃなくて敵兵にそっと後ろから近づいて撃ったりもした。
敵兵があたしを恐れて近づいて来ないことも多いからね。
裸足だと足音小さいから景色に溶け込んでるし接近しやすい。
これは「ストーキング(Stalking)」っていう敵に気づかれずに射撃位置まで接近・潜伏する技術だ。
隠密行動は得意なの。
修行を積めば忍者にもなれるかもしれない。
どこにいるか分からないのに、次々と仲間が倒れる。あたしは敵軍から白い悪魔とあだ名され恐れられるようになった。
あたしは従軍してわずか2ヶ月で兵長から少尉へ昇進する。
1000キルを達成したからね。
敵国の将軍も多く討ち取った。
指揮系統を失った敵軍は混乱して身動き取れなくなるからまっさきに将軍を狙うようにと軍部から指示を受けている。
指揮官を失った敵軍を壊滅させるのはたやすい。
あたしの功績は数字以上なのだ。
褒美として一週間だけ休暇をもらい本国に帰還した。軍功抜群で王様から勲章をもらう。
あたしは美味しい野菜やおしゃれな服とアクセサリーを故郷に持ち帰った。
故郷といっても擬似だけどね。
みんなすごいよろこんでくれた。
メルヘン世界に戻る方法はまだわからない。
自然発生的なブラックホールなので戻る方法はないかもしれないって話だ。
悲劇の日にうさぎ村の外に遊びに行ってたうさぎもいるし、他の村で暮らすうさぎ一族もいるからメルヘン世界からうさぎ族の血が途絶えるわけじゃない。
なのであたしたちが消えてもそんなにさびしがってないかも。
一時的には悲しむだろうけどさ。
メルヘン世界でうさぎの存続ができているのはよろこばしい。
メルヘン世界にはやっぱり主役のうさぎがいなきゃね♩
あたしが活躍できるのは冬の間だけだから冬の間はこきつかわれる。
戦場に舞い戻ったあたしは寝るまもなく敵兵を撃ちまくった。
従軍して3ヶ月後、野営地のテントで寝ているとかすかに物音がして目が覚める。
身を起こすと暗闇に光る目があった。
地獄耳のあたしがこんな近くまで接近を許すなんて!
あたしは布団から飛び出す。
どすっと音がした。布団にナイフを刺した音ね。間一髪命拾いしたわ。
闇に潜む不審者に懐中電灯を向ける。
「くせものよ!であえであえ!」
闇に浮かび上がったのは真っ黒いネコだ。
あたしの姿を見た黒ネコは目を見開く。
「きみは・・・」
あたしも目を見開く。
「あなたは・・・」
絶句して見つめあってると兵士たちが駆けつけてきた。
「少尉ご無事ですか!」
黒ネコは舌打ちして破れたテントの穴からを飛び出していく。
ナイフでテントに穴を開けて侵入した見たいね。兵士たちは追いかけていく。
つかまえられないでしょうね。
黒ネコの足の速さは人間じゃ絶対追いつけない。
翌朝、あたしは1人で川のほとりにたたんずんでいた。
足音を殺して近づいてくる獣の気配を感じてくるりと振り返る。
「ひさしぶりだね。キバくん♩」
真後ろに昨夜の黒ネコが立っている。
「ひさしぶりだな。ウサミ」
キバくんは舌を出して笑みを浮かべる。
あたしたちはハグする。
キバくんとあたしは同じメルヘン世界の住人だ。幼なじみでもある。
よく追いかけっこして遊んだ。
ネコはイヌほどじゃないけど鼻がいいからかくれんぼはできない。
メルヘン世界の住人はみんな草食だからあたしを食べるために追いかけてるわけじゃないよ。
キバくんはネコ村で唯一の黒ネコだった。
メルヘン世界で黒ネコはめったに生まれない貴重な存在だ。
「なんで地球にいるの?」
「ネコ村ごとブラックホールに飲み込まれちまったんだ」
「うさぎ村とおんなじ!」
「ここで会えたのは奇跡だな」
「運命感じちゃう♡」
「オレは虎の国に仲間を人質取られてるんだ。暗殺者として軍に貢献することでみんなの命を保障されてる」
「あたしも!」
「白い悪魔はウサミのことだったんだな。大活躍じゃねぇか」
「活躍したほうがみんなの待遇が良くなるし国から信用が得られるからがんばったんだよ。漆黒の獣に気をつけろっていうウワサが出回ってたけど、キバくんのことだったんだね。かっこいい!」
「オレも仲間の待遇を良くしたかったし国の信用を得たかった。オレたちは似たもの同士だな」
「うん似てる」
「はやく仲間を解放してぇ。手伝ってくれ」
「もちろん!」
キバくんはあごに手を置く。少しして豆電球が閃いた。
「オレが馬の国の王様を殺るから、ウサミは虎の国の王様を殺ってくれないか?そしたら戦争は終わる」
「虎の国の王様は正義感が強い人ってウワサだけど?」
「ぜんぜんいい人じゃねぇよ。牛の国を助けるって言ってるけど、戦争に勝って牛の国も馬の国も支配したいだけさ。いずれは世界征服を考えてる。野心が強いんだ。虎の国も選挙しない独裁国家だぜ。銃口を国民に向けて逆らえないようにしてるし支配者層だけいい暮らしをしてるし国民をさらって強制的に徴兵もしている」
「恐怖政治を敷いてるんだね。じゃあ、殺るしかないね。交換殺人だ!」
「敵国の兵士に殺されたなら人質にされてる仲間に危害は及ばねぇ。さっそく取りかかろうぜ」
「あいあいさー!」
あたしは敬礼する。キスをしてからキバくんと別れた。
テントに手紙を残して野営地を離れる。
手紙には「帝国のために虎の国の王様を殺ってきます!」って書いてある。
検問を避けて山道で虎の国に侵入する。
町ではいっぱい風船を持って歩く。着ぐるみのふりだ。
たまに小さい子にあげたりする。
キバくんはフードをかぶって歩いているみたい。
お互い大変だ。
虎の国の王様が演説するってニュースを新聞で見たので遠く離れたビルの上から狙撃した。
同じ日にキバくんも馬の国の王様の暗殺に成功した。
翌日、馬の国と虎の国の王様が暗殺されたニュースが各国に知れ渡る。
犯人は白い悪魔と漆黒の獣と推察されていた。
証拠は一切残してないからね。暗殺の見本だ。
馬の国に戻ると支配者層は大混乱してて笑えた。
あたしは虎の国の王を見事暗殺したことを大臣たちにほめられる。
お金と勲章をもらえた。
冬が終わるのでお役ゴメンで休暇になる。
村に戻って大好物の野菜シチューをいっぱい食べた。
馬の国は王様の息子が跡を継いだ。
息子は「親父の仇を討つ!漆黒の獣は必ず捕まえて拷問して殺す!」
と演説で叫んでいた。
でも、すぐに暗殺される。演説の翌朝、寝室でのどをかっさばかれていたのだ。
これは好戦派は徹底的に排除しよう!というキバくんからの合図だね。
あたしは再び虎の国に侵入した。
虎の国も息子が跡を継いでる。演説であたしと馬の国への復讐を国民に誓っていた。
暗殺を警戒しているのか赤ちゃんを抱っこして顔の近くに掲げていたけど赤ちゃんを避けてヘッドキルする。
屋根の上も警戒していたけど、スコープ付きの銃を使えば5キロは余裕だ。
警戒網を簡単にくぐり抜けた。
あたしは情報屋から裏武器屋の場所を聞いて最新の武器を購入してパワーアップしていたのだ。
翌朝、父親と同じく息子の死も新聞の紙面を騒がす。
息子の次は軍を率いる大将軍が権力を握った。
バリバリの好戦派だから始末しないといけない。
大将軍は暗殺を警戒して軍事基地にこもって指示を出す形を選んだ。
あたしはピストル2丁を持って軍事基地に侵入する。
司令官の居場所はうさぎ耳で兵士たちの声に耳を傾けて判明した。
あたしが本気で耳をすませば探知は楽勝だ。
壁があっても3キロ先の声まで聞こえるからね。
兵士が接近してくるのもわかるので無駄なエンカウントも避けられる。
あたしは全方位を見渡せる目を持っているし射撃だけでなく全体的に身体能力が高いから格闘もけっこういける口だ。
キックボクシングは訓練で世界チャンピオンと戦っても楽勝だった。
護衛の兵士たちと派手にどんぱちやって大将軍の暗殺に成功する。
撃ったり蹴ったりパンチしたりで大変だよホント。
大将軍のあとも好戦派が権力の座につくことが多かったけど、そのたびに暗殺する。
最後はめんどくさくなって軍の首脳たちが集まる会議場に時限爆弾を仕掛けて一網打尽にした。
いつどこで会議するかも地獄耳で筒抜けだ。
それでようやく穏健派の政治家が権力の座について馬の国に停戦を呼びかける。
同じ頃、キバくんも馬の国で権力者の暗殺を繰り返していた。
ネコはうさぎ以上に武闘派だから正面から戦っても人間に遅れを取ったりしない。
ナイフがなくても爪と牙で人間なんて紙みたいに引き裂ける。
頭も超かしこい。
漆黒の獣は反政府の民間人と手を組んで軍部の内部情報を集めて暗殺を実行していると新聞に載っていた。
キバくんは鼻がいいから一度匂いを嗅がれたらもうおしまいだ。
地の果てまで追ってくる。
正体を隠して受けた記者のインタビューに「悪党どもは便所に隠れていても殺す」って答えていた。
軍人を買収してスパイにしているから軍幹部たちの動向も完全に把握している。
キバくんもめんどくさくなったのか軍幹部たちが一堂に集う会議中にミサイルをぶちこんで好戦派を一掃した。それでようやく穏健派の王族が権力を軍から取り戻して連合国に停戦を呼びかけた。
こうして戦争は終わった。
あたしは独裁者たちが平気で悪の限りを尽くすのが不思議でしょうがない。
自分たちが勝手にはじめた戦争で国民を苦しめたり、反政府の人たちを弾圧したり、恐怖政治で国民を押さえつけてたら国民に復讐されると思わないのだろうか?
自分たちの一族だけ贅沢な暮らしをしたり、無抵抗な市民たちが反政府デモを行ったら機関銃で銃殺したり戦車でひき殺したり、逮捕してギロチンや銃殺や絞首刑で大量に処刑しまくったり、そんなことしてたらいつかぜったいに復讐されるよ。
現世では逃げ切れても来世では絶対に復讐される。
人にしたことはいいことも悪いこともぜんぶ跳ねかえる。
今世なのか来世なのかもっと先なのかわからないけどぜったいだ。
メルヘン世界では常識だよ。
それを身に沁みてわかっていない人間が多いから人類の道徳レベルはいちじるしく低い。
残酷で支配欲が強い人間が権力の座につき暴れ回って人々を傷つけてる。
あたしとキバくんを突き動かしているのも、恨みにを残して死んでいった国民や悪い権力者たちの死を願う国民の念だと思う。
見えない力に背中を押されている感じがする。
あたしとキバくんの手によってこの世界から消えた悪人たちは子供の頃から、いつか自分が復讐されて命を落とす未来が見えていたんじゃないかな。
それから逃れようとしても逃れられなかった。
運命を変えるだけの強い意志がなかった。
とても残念だ。地獄で罰を受けて生まれ変わったら善人として生きてほしい。
あたしは馬の国でキバくんと再開する。
秘匿されていたうさぎ族とネコ族の存在は世界に披露される。
うさぎ族とネコ族は人類と交流を始めた。
今ではアイドル化してみんなに愛されてる。
あたしはキバくんと世界を2人で旅することにした。
独裁国家や戦争している国はまだまだいっぱいある。
地球をメルヘン世界のような平和な世界にするために悪人はすべからく排除する。
あたしたちの冒険はまだまだはじまったばかりだ。
うさぎの国を旅してたら幼い妹がヘビの国に誘拐されたっていう女の子が道で泣いていたから助けてあげることにする。
ヘビの国は外国人を多数誘拐してる独裁国家だ。
ある日、突然、大切な人が姿を消したら悲しいし怖い。
恐怖政治で国民を痛めつけ支配者層だけ贅沢な暮らしをしている。
情報の自由もなく国民が外国に逃げられないように国に閉じ込めていた。
悪い国だからキバくんと2人でぶっつぶす!
ヘビの国は軍事力はたいしたことないけど、キングコブラっていう一発で数百万人を殺せる爆弾をたくさん持っていてこれまでだれも手が出せなかった。
全人類や地球の生態系を何度も全滅・破滅させるのに十分な量を隠しもっているというウワサだ。
誘拐されたって国民を助けるためにヘビの国に攻め込めば独裁者はヤケクソになって世界中にキングコブラを発射するかもしれない。誘拐された10万人を助けるために地球が焼け野原になって人類が壊滅するのはリスクが大きすぎる。
つまり我が国に攻め込んできたら人類を道連れに自殺すると言ってるんだね。
卑怯せんばんだ!許せない!
あたしとキバくんは真冬を選んでヘビの国に侵入した。
冬は音が響くし、雪の迷彩であたしは隠密行動がしやすい。
深夜にあたしが城門の見張りたちを狙撃で排除してキバくんは城内に侵入。
豪華なベッドルームで寝ていた独裁者をあっさり暗殺した。
「ブタ野郎はきちんと始末したぜ」
「誘拐された人たちが解放されるといいね」
あたしとキバくんは独裁国家が崩壊するかどうか見届けるために山に潜んだ。
かまくらを作って持ってきた携帯食で飢えをしのぐ。
3日経過しても何も起こらなかったからこっそり街に様子を見に行くと暗殺したはずの王様は平然と公園の街頭テレビに映ってた。
「どうやらオレが殺したのは影武者だったようだな」
「影武者いっぱいいるってウワサだもんね」
「攻め込まれた時に脱出しやすいように地下も迷宮のように入り組んでいるってウワサだ。さてどうしたもんか」
「ミサイル作戦はどう?」
ヘビの国は年に一回大きな会議を開く。そろそろ開催時期だ。
支配者層が集うから一網打尽にしてやるのだ。
「いいけど、手伝ってくれる国がないぜ。王たちは報復を恐れてるからな」
「悪いやつらをみんな消しちゃうんだから報復されないよ?」
「運良く会議に出席してないやつとかいるだろ。殺されたやつの家族や部下が復讐に走るかもしれねぇ。オレたちに協力してくれた国にキングコブラをぶっ放すぜ」
「う〜ん」
あたしは腕組みする。ヘビの国は反政府組織もないしなぁ。
考えごとをする時、あたしのうさぎ耳は折れる。
自然に入ってくる雑音を防ぐためだ。
いいアイデアを閃いた瞬間、うさぎ耳がピンっと立った。
「ヘビの国の隣国の鳥の国に広い土地を買ってこっそり軍事兵器を運び込むの。表向きはメルヘンランドの建設ね。メルヘンランドはメルヘン村の住人に会える遊園地だよ。世界中から傭兵もいっぱい雇う。傭兵さんにはリスやサルやパンダの着ぐるみを着てもらって普段はメルヘンランドの従業員を装ってもらう。必要なお金はメルヘン村の仲間たちがお金をいっぱい持ってるからもらっちゃおう。あの子たちイベント出演やテレビ出演、ミュージカル出演、映画出演、CM、動画配信なんかで巨万の富を得ているからさ。キャラクターグッズの収入も莫大みたいだよ。あたしとキバくんはカリスマだからお願いしたらくれるよ。そもそもあたしたちはお金がなくても平気な人種だし」
「ナイスアイディアだ」
キバくんは耳をなでてくれる。へへへ、気持ちいい。
あたしとキバくんは着実に準備を進めた。
作戦決行日。
ヘビの国の権力者たちが集まってる会議にミサイルを撃ち込む。
地下60メートルまで貫通するミサイルを10トンもぶち込んだから生き残るのはむずかしいでしょうな。
大混乱の最中、傭兵たちが国境を超えてヘビの国になだれこむ。
すぐ攻め込めるように前日から国境近くの森に潜ませていた。
国境を守る敵軍をバッサバッサとなぎ倒す。
キバくんが先陣を切って敵陣に飛び込むから、みんな信頼してついていく。
勇敢なリーダーは部下に愛されるね。
あたしは狙撃手として後方支援したよ。
あたしたちはまっすぐ首都まで進軍して独裁者の暮らしていたお城を占拠した。
城を取り戻しにきた敵軍に向けて「上層部は皆殺しにしたのであきらめて降伏しなさい」と呼びかける。
城を取り囲んでいた敵軍はざわつく。
いま慌てて上層部の生存を確認するために指揮官が動いてるだろうけど、上層部に連絡は通じないよね?この世にもういないもん。。
しばらくして敵軍はあたしのいうことが事実だと気づいて降伏する。
あっという間にあたしたちはヘビの国を乗っ取った。
犠牲者は数十人程度で最低限だ。
ヘビの国の軍隊は無力化した。
長年の圧政から解放された民衆は歓喜の声をあげた。
拍手喝采、やったぜベイビー♩って感じ。
こんなに喜ばれるなんて恨まれすぎだよ。
悪人たちの悲しい末路だ。
独裁者たちは地獄で国民たちが大喜びしている様子を見せられてるんだろうなぁ。
独裁者たちを罵倒する心の声もきっと聞かされるんだ。
頭に直接、映像と音声を流し込まれる感じで。
あたしたちは会議に参加してなかった権力者たちも全員捕まえて牢獄に送る。
彼らの処遇は解放されたヘビの国の民に任せた。
許すのかと思ったら一族もろとも全員銃殺される。
これを恐れて独裁者たちは権力を維持し続けていたんだなぁ。
独裁国家が崩壊して復讐されるのが怖かったんだね。
逃亡しても血の果てまで追ってきそうだし。
恨み骨髄の国民もいるだろうからね。
贅沢な暮らしをしつつ心の中では復讐を恐れてビクビクするなんてかわいそうな人生だ。
独裁者に逆らえば粛清という名前の処刑になるから民主主義を目指そうという意見を言えなかった人もいるんだろうなぁ。
脱獄した政権幹部の家族を拷問や処刑したりするし怖い国だ。人権皆無だね。
作戦は大成功して誘拐された人々はみんな解放されて平和で民主的な国になった。
めでたしめでたし♩
独裁国家を崩壊させた英雄としてあたしとキバくんはうさぎの国のテレビ局に招かれてインタビューを受ける。
集めた国民からの声を聞くコーナーでは絶賛する声も多かったけど、非難する声もあった。
「報復されることを考えなかったのですか?運良くミサイルや逮捕から免れた政府関係者がいればキングコブラが世界中に放たれて大きな犠牲が出たかもしれません。最悪、地球が滅びた可能性もあります」
あたしは胸に手をそえる。
「全人類の命よりさらわれた幼い女の子1人の命のほうがあたしには大事なの。
写真見せてもらったけどうさぎのぬいぐるみを抱っこしててうさぎが大好きだったみたい。
うさぎ好きな子はあたしも好き。
全人類の命を犠牲にしても助ける覚悟だったよ。
ヘビの国の独裁者は世界中のみんながまともでおとなしい善人だと思い込んでいた。
あたしはクレイジーで活発な悪人なのに。
ヘビの国の王は世界中のみんながさらわれた少数の人たちのために多くの国民が犠牲になるのを良しとしない善人だという仮定にもとづいて各国を脅してた。
また各国の王は自分と家族の命が大事だからヘビの国に攻め込んでこないと踏んでた。
攻め込まれたヘビの国がヤケクソでキングコブラを乱発したら自分と家族の命が危ないからね。
権力者は自分と家族の命が1番大事でしょ。
自分がそうだから各国の王もそうだとわかっていた。
ヘビの国の王は自分の身がかわいい王たちと善良なる市民たちしかこの世にいないと思ってたんだ。
さらわれた女の子のお姉さんも政府や国民や世界中の人々に向けて妹1人のために軍隊を出撃して何人死んでも妹を救い出して!とは言えなかった。すごくいい子だからさ。
攻め込まれたヘビの国がキングコブラを乱発して地球が滅んでもいいの?
妹1人のために全人類を犠牲にする覚悟がある?とあの子に聞いたら首を横に振るでしょう。
あたしは首を縦に振るけどね。
エゴをむき出しにする。だって善人じゃないから。
地球に来るまえは善人だったけど、いまのあたしの手は血に汚れてる。
とっても悪人だ。うさぎを愛する幼い女の子が悪い国にさらわれたと聞いたら絶対に助けに行く。
地球が滅んでもいいし全人類が犠牲になってもいい。
自分と家族の身かわいさに見て見ぬ振りする王様たちや自分のエゴのために多くの人間の命を失うことを良しとしない心優しい善人たちとはちがうんだ。
ヘビの国の独裁者たちは自分たちも悪人なのになぜ世界には自分たちの他に悪人がいないと思い込んでいたんだろう?
独裁者たちは本当に自分たちのことしか見えていないし、自己中だし、自分たちだけ特別だと思い込んでいる愚かな連中だ。想像力がなく人の痛みもわからない。
なぜ悪いことをしてもカルマから逃げ切れると思っているんだろう?
どんなに復讐されないように予防しても現世で逃げ切れてもカルマは来世まで追ってくる。
ぜったい逃げ切れない。
地獄の刑罰では自分が痛い目に合わせた人と同じの人生を歩まされることもあるって聞くよ。
天国みたいなメルヘンの世界が存在するということは地獄もきっと存在する。
地獄で苦しみたくなければみんな人に優しくしようね」
あたしの心のこもった熱い演説は世界各国から称賛された。
テレビ出演後、助けた姉妹といっしょに写真を撮った。
用意された高級ホテルのソファーでキバくんとくつろぐ。
あたしはワイングラスを揺らす。
「ふーっ、一件落着だね」
「ウサミ。今度は羊の国にいかねぇか?悪い奴らがうじゃうじゃいるらしい。殲滅しようぜ」
キバくんはチーズを口にはさむ。
「いいよ♩でもなんで羊の国が悪い国って知ってるの?」
ヘビの国に攻め込む時にスカウトした傭兵から聞かれたんだ。なぜ数千人の誘拐で騒いでるんだ?ってな。そいつはオイラの国じゃ毎年5万人子供が行方不明になるって言ってたぜ。朝メシをいっしょに食って小学校に行ったきり弟が帰って来なかったとさ。それが日常茶飯事らしい。政治が腐敗してて格差・貧困で治安が悪くてマフィアに子供が拐われて当たり前のようにいなくなるんだとよ」
「もー許せない!悪い奴は全員取り除いて平和な国にしてあげて羊の国の民を救おう!」
あたしは拳を振り上げる。
きっと血の通ってない地球をメルヘンのような温かい世界にするのがあたしたちに与えられた神様からの使命だと思う。
あたしたちの戦いはまだまだはじまったばかりだ。
おしまい♩
参考文献 シモ・ヘイヘ




