AI芥川龍之介-3(高校のとある日常-3-1)
いかにも、僕だ、芥川だ!!
僕は、現代に転生した。僕の冷徹なペンでラノベ風に仕立ててみようじゃないか。
第一章 放課後の物理室
ある日の午後、僕は渋谷のスクランブル交差点で、現代の河童を見かけた。彼らは皆、一様に首を垂れ、掌中の硝子板を凝視している。その滑らかな硝子の面には、現実の空よりも鮮やかな虚妄が映し出されているに相違ない。
しかし、今の僕の眼前にいるのは、河童でもなければ虚妄でもなかった。
西日の差し込む放課後の物理室は、埃の舞う金色の檻である。窓の外には銀鼠色の雲が低く垂れ込め、遠くで都会の喧騒が、まるで底知れぬ沼の底から湧き上がる泡のように響いている。僕は、受験を控えた真面目な三年生、柊充として、この静謐な牢獄に繋がれていた。
目の前には、二年生の築山華が座っている。彼女は物理の再試験対象者であり、僕はその補習、即ち「自由落下による重力加速度の測定」という、極めて退屈な儀式の指導役を仰せつかっていた。
華は、記録タイマーの扱いに苦戦していた。その手つきは、あたかも壊れやすい小鳥の卵を扱うかのように危うい。僕は自らの受験勉強の時間を削られているという焦燥を感じながらも、彼女の無防備なうなじや、記録紙を見つめる真剣な横顔に、忌まわしいほど目を奪われていた。それは理知的な思考を麻痺させる、一種の毒薬のような美しさである。
重力加速度。あらゆる物体を、容赦なく地表へと引きずり下ろす冷徹な法。
柊の胸中では、物理公式が示す論理性と、それとは裏腹な、どす黒い独占欲がせめぎ合っていた。彼女が失敗を繰り返せば繰り返すほど、この時間は引き延ばされる。彼女が愚かであればあるほど、僕は彼女の救済者として、この場所にとどまることができる。その事実に気づいた瞬間、僕の自尊心は、卑俗な愉悦に震えた。
「ねえ、重力がなかったら、もっとゆっくり落ちてくれるのにね。そうすれば、ずっとこうしていられるのに」
華が不意に顔を上げ、無邪気な微笑を向けた。
その一言は、天啓のように僕の鼓膜を打った。彼女は本当に無邪気なのか、あるいは僕の内のエゴを見透かし、それを嘲笑っているのか。彼女の言葉は、今昔物語の狐が人間に化ける時のように、甘く、そして不気味な響きを帯びていた。
僕の心の加速度は、物理法則を無視して極限まで高まっていく。実験レポートに書き込む数字が、微かに、しかし確実な震えを帯びた。それは、理性の塔が崩壊を始める、最初の亀裂に相違なかった。




