19 燃え盛る家と中から出てくる者
燃え盛る二階建ての空き家に、ギルド員である獣皮の鎧を着た男二人が恐る恐る近づいていく。
伝書フクロウによる消火作業の通達が先程行われた。
デトハーは騒動に陥っていて危うく取り乱してしまうところであったが、ギルド長の素早い判断にギルド員達は安堵し早速作業に取り掛かっていた。
魔狼の対処は、ブッレヤクサ率いる傭兵が担当するとのことだった。
アルペッツステーレと長年契約している傭兵たちの実力は、王都にいる騎士達をも凌ぐとも評価されている。
魔狼を退治しきるのも時間の問題だろう。
空き家を焼き尽くさんとばかりに燃える炎の動きは、まるで生き物のようであった。
近づいたギルド員二人はその勢いに恐れつつも、手に魔素を練り集め、魔素の塊が出来るとそれを渦巻く水球へと変化させた。
一度に練れる球の大きさとしては、自分の頭より小さい程度。
燃え盛る家の火を消すには数度と作りぶつけるしかないと、ギルド員は二人して考えていたことが合図になったかのように頷きあった。
いざ水球を投げつけようと振りかぶったところに、炎に包まれる空き家から頭までマントで覆う長身の人物がのっそりと出てきた。
「お、オイ、お前、こんなところで何をしてるんだ!?」
長身の人物の片手には、焼け焦げた木箱が掴まれている。
「んん? あー、人助けだよ、家が燃えてたもんでな。誰か居ないかと中に入ったんだが、空き家だったんだな、この家。なにぶんこの街には来たばかりでな、こんな立派な家が空き家だなんて思わなかったよ」
長身の人物は、しゃがれた笑い声を付け加える。
彼は焼け焦げた空の木箱を地面に投げ捨てながら、「これが置かれていたから、人がいると思って入った」と付け加えた。
「そ、そうなのか。しかし無茶をするものだ、人命救助とはいえ、燃え盛る家に一人で飛び込むだなんて」
「人助けだと思って飛び込んじまったんだよ。結果的には空振りだったから、笑えねぇ話だがな」
そう言いながら、その人物はしゃがれた声で笑った。
「オレはアンタらみたいに魔法をあつかえないんでな。水が作り出せてたらすぐにこんな火、消してたんだが」
しゃがれた声の人物の言葉に、ギルド員は練り作り出した水球のことに意識を戻す。
再び振りかぶり直し、今度こそ水球を燃える家へと投げつけた。
「おおー、見事見事!」
しゃがれた声の人物は振り返り、生き物のように猛る炎にぶつかる水球の様子に拍手を送る。
猛る炎が僅かに消えて、水球が弾け蒸発していく。
炎と水球の衝突によって生じた衝撃が強風となり、しゃがれた声の人物とギルド員たちに吹きつけた。
覆い被っていたマントがめくれて、しゃがれた声の人物の顔が見えた。
ボサボサとした白髪、鋭く吊り上がった目は赤く夜の闇でも炎に照らされ目立っていた。
無精髭は黒く、顎から首元に大きな傷跡が残っていて、まるで蛇が這っているようであった。
「消化の方は任せるぜ、お二人さん。ああ、そういえば、オレは話を聞いただけなんだが、アンタらここらじゃ見かけない服装の男を見なかったか? 旅装束とは違った感じの服装をしてる男だ」
水球を練っては燃え盛る炎に投げ続けているギルド員二人に、しゃがれた声の男は問いかける。
問われたギルド員二人は、『見かけない格好の男』など、このデトハーでは日常茶飯事のため、すぐには思い当たらなかった。
デトハーは商人も旅人も多くの者が行き交う街だ。
少し前なら他国の人間すら集まってきていたのだから、ここら一帯じや見かけないものなど度々あった。
だが、今日──。
「そういえば、何か噂してたような。確か、白い布と青い生地の何かを着た、見慣れぬ履物をしてる男がいると」
白いTシャツに青いジーンズ、そしてボロボロのスニーカー。
「ああ、きっとソイツだ。ソイツが魔狼を呼び出してるのを見たって、言ってるヤツがいたんだ。オレはソイツが放火もやってるんじゃねぇかと、探してるとこなんだが・・・・・・」
しゃがれた声の男は、人差し指と親指で挟むようにして無精髭をなぞる。
「なんだと!? 情報感謝する、他のギルド員にも伝えてその男を探させよう!」
そういうとギルド員の一人が人差し指と親指で輪を作り口に咥え、口笛を鳴らした。
燃え盛る家から黒煙舞い上がる上空より伝書フクロウがバサバサと翼を羽ばたかせながら降りてくる。
「じゃあ、任せたぜぇ、犯・人・探し♪」
伝書フクロウにギルド員が何やら話しかけるのを見て、しゃがれた声の男はその場所を離れていった。




