12 フクロウの看板と食事処
ノール一行についてきて辿り着いた外壁に囲まれた街、デトハー。
武志はその外壁の高さばかりに目を取られて横の広がりを気にしていなかったのだと、街の中に足を踏み入れてから思い知ることになった。
街までの道中でヴィンドから王都という言葉はこの街のことではない北の方にある場所のことを指しているはずなのだが、このデトハーという街の広さはイメージとしてそれに匹敵するほどの大きさであった。
武志の中にあるイメージはテレビゲームのそれで、始まりの街といえば住居が数軒、店舗が二つ程度といった想像だった。
通ってきた入口の門の反対側、つまり街の端となる外壁ははるか遠くに見えている。
その外壁までの間に壁よりは低い、大体二階建ての住居が入り組んだ通りを挟みながら並んでいる。
見える軒数からするに街の住人の数はなかなか多いのではないかと予想できるし、実際に街の中は外とは違い人通りが賑わっていた。
「何、キョロキョロしちゃって? 人混みが珍しいとか?」
ノールとアースカと共に先行して歩いていたミュレットが遅れていた武志とヴィンドを待ち構えていた。
田舎者と小馬鹿にする気があるわけではなく、武志の出自を相変わらず気にしているようだ。
「あ、いや、予想外というか想像外というか。むしろ人混みには馴れてるから、その感覚を味わうとは思ってなかったというか」
日本から来たことや、想像していたのがゲームの中の話だと説明しても、かえってややこしくなると、武志はどう言えばよいか迷った。
戸惑った結果、結局ミュレットの首を傾げさせるだけになった。
「よくわかんないけど、とにかく見たとおりデトハーは広い街だから離れないようにしっかりついてきなさいよね」
出会って数時間というところだが、武志はすっかりミュレットに年下の子供のように扱われていた。
ちょっと目を離すと迷子になってしまう弟のような扱いだ。
ミュレットの見た目、背丈からは直美と同い年ぐらいに思えるのだが、年齢を聞いたわけではないので実際歳上なのかもしれない。
妹のように暮らしてきた直美のことを意識してしまい弟扱いに躊躇いはあるものの、武志は下手な反抗はせず素直に頷くことにした。
「我々が泊まっている宿は街の東側になるのですが、まずは腹ごしらえということで西側にある食事処を目指しましょう」
ヴィンドが丁寧な案内を示し、ミュレットは何かに納得したのか頷いて再び先行するノールとアースカを追いかけるように早足で歩いていった。
「我々はゆっくり向かいましょう。タケシ殿にとっては初めての街並みでしょうし」
見知らぬ土地、見知らぬ街、見知らぬ世界。
武志にとって今目に映るものは何であれ大切な情報であった。
ノールたちについていくかどうかを決めるためにも、まずは“知る”ことが必要だった。
「ヴィンドさんは何かと察してくれてありがたいよ」
「いえいえ。何か気になることがあれば気軽に聞いてくだされ。老人は知識を語るのが好物ですから」
ヴィンドの言葉に甘え、武志はそこから目的の食事処に辿り着くまでの間、気になったあれやこれやについて遠慮なく質問しながら歩いていった。
「ようやく来たか、お二人さん。ギルドへの報告は終わらせておいたから奥でさっさとメシを食おうぜ。ノールとミュレットなんて待ちきれず、先に席座ってるぜ」
建ち並ぶ住居と、武器を取り扱う店や何かしらの道具を取り扱う店の前を通り過ぎてデトハーの西側奥にあるフクロウの看板が目立つ二階建ての店に辿り着く。
口頭の言葉はミュレットのおかげで理解出来ている武志だが、看板に書かれた文字までは理解出来ないらしい。
魔素で認識能力をいじったという話だったが、そこまで都合よくはいかないらしい。
入口の木製扉を開くとすぐ正面に受付用のカウンターがあって、そこでアースカが受付嬢から革袋を受け取っていた。
「ギルド? 報告?」
「先程行った魔素に飲み込まれた村の浄化、あれはギルドから受けた仕事だったのですよ」
「そう、それでこれがその報酬ってこと。そんでもって今夜のメシ代であり宿泊費だ」
到着の遅れた武志とヴィンドがお勉強会をしてたのだと察したアースカは、また武志の質問が長くなる前に二人を奥の食事処へと促した。
フクロウの看板を掲げるギルド&レストラン『アルベッツステーレ』は、1階の入り口付近でギルドの受付を、奥でレストラン営業を行っている。
2階には数部屋の宿泊部屋を用意していたりもする。
先程の受付嬢含め店員は緑と白の、エプロンともメイド服とも言えるような、肩部分やら裾部分やらにヒラヒラしたものがついた制服を着ていた。
男女問わず、である。
受付嬢や、注文を取りに来たウェイトレスらしき店員の女性が来てる分には可愛らしく武志には思えたが、店の奥に見える料理長らしきガタイのいい厳つい表情のオジサンもそのヒラヒラした制服を着ていて何故だと疑問が浮かんでいた。
凝視していたらオジサンとふと目が合ったので武志は慌てて視線を逸らした。




