11 囲われた街とそびえ立つ外壁
村の浄化が終わる。
充満し漂っていた魔素がかき消され、空気が軽くなったと武志は思った。
ヴィンドが、それでは戻りますか、と切り出すとノールらもそれに頷き村の出口に向かって歩いていく。
確認を取られることも、取ることもなく、武志はとりあえず一行についていくことにした。
まだまったく知りもしない土地で、もちろん他に頼れる相手もいないので、とにかくノール達について行くしか道はなかった。
それから、どこへ向かうのか、そのタイミングを探りながら、武志は少し距離を置いて一行の後をついていく。
森を抜け、草原を抜け、かなりの距離を歩くことになったが、だんだんと人の往来で踏みならされた道が見えてきた。
このファンタジーな世界の乗り物のことを武志は未だ知らないが、馬の蹄みたいなものやら細い車輪の跡やらが土の上に刻まれている。
大きめの交通路の前後を武志は確かめるが、今の時間帯は人通りは少ないようで、姿を確認することは出来なかった。
「この道に沿って、北へと向かうとマークリウス王国の王都グローダへと辿り着くのですが、最近は商売へと足を運ぶものも少なくなりましたな」
キョロキョロと辺りを見ている武志の様子に気づき、ヴィンドが説明を入れてくれる。
「王都の方に何か問題が?」
「ええ、その通りです。現在王都は隣国との戦争準備にと張り詰めておりまして、国民であれど王都外の者の立ち入りを禁止しているのです」
「戦争?」
「ふむ、その事については話が長くなりますから、街について一息入れてからにしましょうか」
ヴィンドがそう言って視線を前へと向けると、進む先の方向に壁が見えてきていた。
まだ距離があるが、この場からでも高い壁であることがすぐにわかった。
「アレが、我々が一時拠点とさせてもらってる街、デトハー、です」
さらにしばらく歩き、一行はようやくデトハーへ辿り着いた。
魔素に飲み込まれた村からは、かなりの距離を歩いてきたので、空はすっかり夕焼けに染め上げられていた。
「おー」
思わず感嘆の声を漏らしながら、武志はデトハーを囲む高い壁を見上げていた。
高さで言えばマンションの四階か五階分はあるんじゃないかと思えるほどで、レンガブロックのように加工された石のようなものが積み上げられて出来ている。
試しにコンコンとノックしてみたが、感触からして、そこらの石を加工しただけとは思えない強度だ。
魔素を纏っていても、殴って簡単に壊せるような代物ではなかった。
しっかりとした防護壁なのだろうが、城壁ならわかるが、街を丸ごと囲むとなると、大げさすぎる気がして武志は首を傾げた。
「外壁が物珍しいですか?」
入口となる門の横で、壁のことを調べてる武志にヴィンドが声をかける。
すっかり説明役としての役回りが板についているらしい。
「かなり頑丈な壁だけど、こんなものが必要なくらい物騒なのかい、この辺りは?」
一行の先生役なのだろう、と武志は甘んじることにした。
「この辺り、と言うよりも、この世界はと話を広げても過言ではありませんな。先程対峙しました魔素から作り出される魔物は、魔素溜まりが起きれば何処でも発生しますし、魔物らは当然の様に人間を襲いますから。侵入を塞ぐ為には、魔物の大きさを考慮した高さが必要となります」
たとえば、先ほど倒した大型のリザードマンや、グリーンドラゴンなど。
防御策を怠れば、たちまち街へと侵入され殺された人々から溢れた魔素が宙に溶け込むことなく溜まってしまい、新たな魔物を生み出してしまう。
「なるほど、魔物対策か」
「もちろん、人が登るのも困難な為、山賊などの野盗対策にもなっているのですが、そもそも山賊として生き残れる者も少ないので、その点は機能を必要としてないとも言えますな」
「やっぱり森とか山とか、野盗が潜んでそうなとこほど魔素が発生しやすいとかかい?」
「なかなか鋭い意見ですが、惜しいですな。魔素が発生しやすいのではなく、自然物の多さが魔素を漂わせやすいのです。一ヶ所に漂い渦巻くと、そこに魔物が生じる可能性が高くなりますからな」
魔物が生まれ、潜んだ野盗と殺し合いをして、その殺し合いから溢れた魔素がまた魔物を生み出して。
野盗は数の暴力で殲滅され、魔物だけが増えていく。
「そりゃあ、対策するのは魔物が優先になるか」
「そういうことですな。ところで、タケシ殿、そろそろ中へ入りましょう。先に入った者たちが待ちくたびれています」
「あ、悪い悪い。ついつい気になっちゃって。皆、疲れてるだろうから、先に一息つける場所に行くべきだったな」
武志は慌ててヴィンドの後をついていき、ヴィンドの連れということで入口の門を門番に通してもらい、街の中にようやく足を踏み入れた。




