8 打ち上げられた顔と大きな火球
右前足を斬られ、体勢を崩すグリーンドラゴン。
地に倒れそうになるその身体を、背の大きな翼で持ち上げようと羽ばたくが──
「させるかよっ!!」
アースカが叫ぶ。
力強く引っ張り放つ矢が、魔素の操作で軌道を巧みに変え、翼の付け根に突き刺さる。
再び、苦悶の声を吠えるドラゴン。
「よしっ、今度は刺さったな!」
矢に纏わせる魔素の量を調整しながら、アースカは次々に矢を放っていく。
通常の戦闘では魔素の消費が問題となるが、この場では自身の中の魔素を使う必要が無いほど魔素が渦巻いている。
不謹慎だが、これはいい修行になる――アースカは普段できない戦闘に喜びを感じていた。
通常、魔素を扱うものは生まれ持った自身の体内にある魔素を、大気にある魔素と掛け合わせて利用する。
大気に混じる魔素は、生物に影響を与えない、視認も出来ないほど本来微量なので力として使う上で主となるのは体内の魔素だ。
体内に生まれる魔素は、血液のように作り出され循環し、身体を形作る一部となっている為、過度の使用は命に関わる。
魔素を武器として使用しているアースカは、生命力を消耗するその戦闘方法を普段は抑えながら戦っていた。
それが大気に溢れる魔素を代わりに扱えるのだから、試したいことは山ほどあった。
対して、その微量な魔素を様々な形へ変化させ利用するミュレットのような魔法使いにとっては、魔素に飲み込まれたこの村での戦いは苦手だった。
溢れんばかりに漂う魔素へ法に沿って働きかけようにも、その量の調整が繊細なため、想定以上の火力になってしまったりする。
大きな火球を魔素を練ることで作り上げようとしていたミュレットは、手元の火球の制御が利かなくなりつつあることに、焦っていた。
まだ杖の水晶の先に浮かぶ火球は拳程度の小ささなのだが、辺りの魔素を吸収する法を与えたのでこれが放たれた後にどんな大きさになるのか、既に見当がついていなかった。
放つチャンスは、ドラゴンが崩れ倒れ横たわってから。
そう考えたミュレットは焦りつつも、トドメの一撃のチャンスを今か今かと窺っていた。
左足を持ち上げられ、右足を斬られ体勢を崩し、翼を羽ばたかせることも邪魔されたグリーンドラゴンは足掻くように前左足を振るうが、それはただ空を撫でるだけの行為だった。
空気の層すら叩けない、もがきだった。
そのもがきが横倒しになっていく身体を更に加速させていく。
どぉぉぉぉぉぉん。
激しい音と揺れ、砂埃を巻き起こしながらグリーンドラゴンが倒れる。
目隠しになるほど巻き起こった砂埃の中からリザードマンが新たに現れて、ヴィンドが瞬時に対応していく。
仕込み杖から煌めかせる銀閃が、次々現れるリザードマンの首を狩っていく。
ノールが斬ったグリーンドラゴンの右足が魔素として宙へ溶けていき、そして、リザードマンへと変異して形作られ生まれる。
厄介な相手、とヴィンドがドラゴンを評したのはこの点に由来する。
トカゲ繋がりと揶揄したが、繋がりから考えるにドラゴン繋がりとしてリザードマンが生まれるのだろう。
トカゲと呼ばれてはいるが、実際にはドラゴンマンと呼んだ方が正しいだろう。
魔素として溶ける右足がリザードマンを数体生み出していく。
真っ先に対応したヴィンドに続いて、ノールも加わる。
「ノール王子、ここはお任せを。王子はドラゴンの対応に専念してくだされ」
「大丈夫、そっちはミュレットがやってくれるさ。それより、こっちを早く処理しないと巻き込まれるぞ、ヴィンド爺」
ヴィンドが首を狩り、ノールが大剣で真っ二つにリザードマンを叩き斬っていく。
魔素からリザードマンが形成される速さは、二人の攻撃を上回っていたが、それもドラゴンの右足が溶け切るまでと限りのある話なので二人は攻撃の手を緩めなかった。
巻き上がった砂埃が収まりつつあった。
そこから現れるグリーンドラゴンの顔。
大きく口を開き、その中に炎を渦巻かせていた。
「そう来ると思ったぜ」
アースカが矢を放つ。
紫の炎のように魔素を纏った矢が、歪な軌道を描きながらドラゴンの右目を刺した。
よしっ、と小さく頷くアースカ。
痛みにドラゴンの口が閉じ顔が上向きに動く。
「オッシャアッ!」
気合を入れ、そこに走り込む武志。
武志はドラゴンの顔の下へ潜り込むと、しっかりと地面を踏み込んで拳を振り上げた。
拳をアッパースイングで突き上げ、ドラゴンの顎を撃ち抜いた。
「ミュレット、今だ!」
ドラゴンの左足を持ち上げた剛力が、ドラゴンの身体を跳ねあげる。
突き上げられたドラゴンの顔面に、ミュレットの練り出した大きな火球が襲いかかる。
「離れろ、巻き込まれるぞ!!」
ノールの警告。
杖から放たれた火球は、大気に充満する魔素を取り込み、ドラゴンの顔を飲み込むほどの大きさへと変貌していた。




