第8話「嫉妬、はじめて知る感情」
翌日の放課後。
教室の片隅で、葵と佐伯が何やら楽しそうに話していた。
「ここ、こうした方が早いよ」「あ、なるほど!ありがとう佐伯くん」
笑顔で頷く葵。
その横顔がやけに楽しそうで、胸の奥がチクリと痛む。
(……なんだ、この感じ)
視線を逸らして作業に戻ろうとするが、耳は二人の会話を拾ってしまう。
笑い声が聞こえるたびに、心臓がざわついた。
作業が終わり、帰り道。
珍しく葵の方から口を開いた。
「佐伯くん、すごく面白い人ですね。クラスで人気なのも分かります」
「……そうか」
短く答えると、葵が不思議そうに首をかしげた。
「お兄ちゃん、なんか機嫌悪い?」
「別に」
それだけ言って前を歩く。
夕陽がやけにまぶしい。
(別に……じゃない。俺、嫉妬してる……?)
家に帰ると、居間に葵がいない。
おそるおそる部屋の前を通ると、ドアの隙間からスマホを見て笑う葵の声が聞こえた。
「……佐伯くんから?」
胸がきゅっと締めつけられる。
どうしてこんなに苦しいのか、自分でも分からない。
その夜、机に突っ伏したままつぶやいた。
「俺……妹が、他の男と仲良くするの嫌なんだ……」
言葉にしてしまった瞬間、心臓がドクンと跳ねた。
もう誤魔化せない。
俺は——妹を、意識してしまっている。