第1話「同居の始まり」
母さんが再婚するらしい──そう聞かされたのは、梅雨明け前の蒸し暑い夕方だった。
相手は再婚同士で、向こうには一人娘がいるらしい。
年齢は俺と同い年、高校二年生。
同居することになると知ったときは、正直、めんどくさいとしか思わなかった。
そして迎えた今日。
スーツケースを引いた小柄な女の子が、俺の部屋の前に立っていた。
「はじめまして。今日からお世話になります、葵です」
笑顔でぺこりと頭を下げる彼女に、俺は気の利いた言葉も出せず、ただうなずいた。
「……一応、俺が兄になるのか。よろしく」
そう言った瞬間、彼女はぱっと顔を明るくした。
その笑顔に、胸の奥が少しだけざわつく。
夕飯は四人で食卓を囲んだ。
母さんと新しい父さんが楽しそうに話している横で、俺と葵は所在なげに箸を動かす。
話しかけようとしても、何を言えばいいかわからない。
「兄妹なんだし、仲良くしてくれよな」
新しい父さんが言った言葉に、葵は素直に「はい!」と答えた。
その横顔が、思った以上にかわいかった。
食後、俺の部屋の前ですれ違った葵が、小さな声で言った。
「……あの、これからよろしくお願いしますね。お兄ちゃん」
初めて呼ばれたその一言に、心臓が跳ねた。
ただの挨拶なのに、妙に意識してしまう。
こうして俺と妹の、少しぎこちない同居生活が始まった。