《1》ゴールデンランナー
「準備 · · · スタート!」
陸上トラックは、今日も活気に満ちている。
サッカーやバスケットボール、その他の球技に技術が苦手だった多くの生徒が、陸上部に入ることを決めた。これは、広い運動場を確保するための学校改革から続く伝統だ。
俺も、テニス部の部長という変な男に引きずられて、1年生のチームに入った。走るのは得意ではなく、長時間全力を保つのも苦手だから、結果的にはその方が良かったのかもしれない。
あの頃を思い出すと、今日の敗北を思い出さずにはいられない。俺は本当にダメだった。
トレーニングも食事制限も真剣にやっていなかったし、優角凛覇や部長のような才能もなかった。だから、負けは避けられなかった。でも、それでも、これまで何度も汗を流し、疲れながら練習に励んできた。
「ナイスラン、暮花ちゃん!」
また考えごとにふけっていたようだ。そう、今のは彼女――霞 暮花の話だ。
この学校では、陸上部は他のクラブに選ばれなかった落ちこぼれの集まりと思われているが、実際には、彼女は間違いなく速い。強い脚と、小柄で細い体を持つ彼女は、レースに勝つために生まれてきたような存在だ。
まあ、俺は彼女のことをよく知っているし、彼女がどれほど過酷なトレーニングを積んでいるかも見てきた。
「あっ、お兄ちゃん!」
そう、彼女は俺の愛しい妹だ。こんな美しい子を、家族でなければ知ることはなかっただろう。
優角は · · · まあ、例外だ。
「よ。今回もすごく速かったな。」
俺は自然に笑顔を浮かべたが、腹に一発殴られた。ぐはっ!
「嘘つかないでよ!今日の最後のレースだったんだから、もう疲れてたの!」
マジかよ。普通の人間は、体調万全でもあんなに速く走れない。
久保霞、つまり俺は、完全に平均的な人間のサンプルだ。少し背が高く、細くて、腕と脚に少し筋肉がついているくらい。青い目のハーフってのがちょっと変わっているだけ。まあ、現実を見よう。俺は標準的な日本人ではないけど、ほぼ近い存在だ。
「暮花 · · · お兄ちゃんはな、夢の中でもあんな速さで走れないよ。」
これほど正直に話したことは今までなかった。やめろ、涙が出そうだ。
「別にいいじゃん!お兄ちゃんはテニス部なんだから!」
彼女の言うことは正しい。テニスでは、反射神経とすばやい脚さばきの方が大切だ。俺はどっちも持ってないけど、それでも事実だ。
「そうだ、お兄ちゃん · · · 初めての走りはどうだったの?」
おそらく『走り』ではなく『試合』を意味していたんだろう。にしても、報告する必要ある?彼女が汗だくでトレーニングしてる横で、俺はいつもソファの隅でテレビを見てるんだ。結果なんて明白だろ。
「うん · · · もっと良くできたかもしれない。」
出た、苦笑い。目線を逸らし、頬をかきながら話す。お願い、察して。
「ってことは · · · 引き分け?」
なんて優しいヤツだ。俺は、4セット全部落として惨敗だった。
「まあ · · · 調子が悪かったってことにしておこうか。」
もちろん、調子どころか、勝てる見込みすらなかった。まるでプロと、テニスをパスタの一種と勘違いしてる男の試合だった。
「じゃあ、最後の一瞬で逆転勝ち!?」
暮花、ちょっと真面目な話をしよう。君のそのポジティブ変換、助けになってない。
「まあ、そんな感じ。『勝ち』を抜けば、完璧だ。」
お願いだから、試合の録画だけは見ないでくれ。
「本当に一回戦で負けちゃったの · · ·?」
それだけは聞かれたくなかった。
相手は優角凛覇だぞ · · · って、そういえば、あいつ試合後にあんなに嘲笑してたな。
やべ、忘れてた。
「ごめん暮花、先帰るわ!教室にカバン忘れてきた!」
才能も体力もない男が出せる限界の速さで、俺は妹のもとを離れた。
「お兄ちゃん · · · 肩にカバンがはっきり見えてるよ · · ·」