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EP1「女主人様、いい加減な査定はやめてください」

 この物語にはあらゆる人種や動物そして動物と似て異なる怪物(モンスター)が生きている世界だ。

そんな世界の中の1つに砂漠の広がるテーベル王国という国がある。

一歩足を踏み入れると、古代エジプトのようなクリーム色の巨石の建物や柱が建ち並び、国王が住む町の中央の奥にはインドのタージ・マハルによく似た宮殿が国のシンボルの様に建っていた。

町から数km歩くとピラミッドがあちらこちらに建っているクムヌヌポリスという村がある。

その村には少し……いや、かなり変わった趣味を持ち祖父から受け継いだ骨董店を営む、褐色肌の女主人あるじバーリア(20歳)が店のカウンターでお気に入りの鹿の頭蓋骨スカルを猫を撫でるかの様に触りながら溜息をついていた。


バーリア「……いつになったらあたしが依頼したアイテムは来るのよ。かれこれ半年は待っているのに」


店の床を箒で掃き掃除している骨董店の住み込み従業員、ファラオ・ハウンドの耳と尻尾がついた獣人じゅうじんアヌビス(12歳)が眉をハの字して答えた。


アヌビス「仕方ないですよ。女主人様が依頼したアイテムはSランクでも『最上級のアイテムです。』と町の役所ギルドの受付の女性に言われてしまったんですから」


この世界には獣人という人種が存在する。

獣人とは字の如く「獣と人間」が混合された人類族ジンルイぞくの亜種ヒト科の種類カテゴリーの1つに過ぎない。獣人の他に鳥人ちょうじん猿人えんじん魚人ぎょじん、そして現代人に近い、小人ドワーフ等が存在する。亜種の彼らには親の遺伝子が持つ特有の特殊能力が、備わっておりその能力の強弱には個体差がある。

例として獣人アヌビスは犬の能力が備わっており、嗅覚と運動能力が現代人のバーリアより優れている。


バーリア「そうだけど〜」


何度もアヌビスから同じ事を言われているが、やはり納得できないバーリアは先ほどより大きな溜息をついた。

アヌビスは掃き掃除が終わると今度はモップを手にして水拭きを始めた。

すると営業前の時間だというのに1人の男性が骨董店のドアを2回ノックする。

近所の高台にある、教会の牧師アーディル(35歳)が大きな麻袋を抱えてやってきた。


アーディル「おーい。開けてくれ〜」


アヌビスは女主人の代わりに返事をしてモップを壁に掛けドアを開ける。

のそのそゆっくり歩き店内に入るアーディルは、カウンター前に着くと床にどさっと麻袋を置いた。それをカウンター越しに見たバーリアはわざとらしくアーディルに聞こえるように呟いた。


バーリア「さっきアヌビスが一生懸命拭いてくれたばかりなのに、もう汚れてしまったわ。床が可哀想〜」


なんとも思っていないアーディルは形だけ詫びる。バーリアとアーディル、この二人の日常会話なのでアヌビスは問題視する事もなく、モップを店の奥の掃除用具ロッカーへ片付け、その隣にあるキッチンへ向かう。流し台の上の戸棚から昨日、町の市場から仕入れたばかりの紅茶の茶葉が入ったアルミ缶を取り出しお茶出しの準備を手際よくこなす。


アーディル「それは悪かったよ。営業前だが、買取って貰えないか?もしかしたら今回の中にお前さんが探しているアイテムがあるかも知れないぞ」


これもさっきの会話と同じで日常(いつも)のこと。前日にお葬式があると決まって家族が遺留品の中で不要と判断したアイテムは全て牧師アーディルの元へいくのだ。教会を維持する為常に現金が欲しいアーディルは度々アイテムを買取って貰うべく通っている。


バーリア「本当?!早速査定するわ」


目を輝かせたバーリアはカウンターから出て麻袋の中のアイテムを査定し始める。

一方アヌビスはアーディルに淹れたての紅茶が入ったティーカップをカウンターの横にあるサイドテーブルに置き、「熱いですよ」と一声かけて一礼した。そしてキッチンに戻り再び店の掃除を続ける。床掃除から今度は店の商品棚を雑巾で拭いている。

数分後査定が終わりバーリアは俯いたまま麻袋の口を閉め、店のレジから1,000ポンドール札と500ポンドール札それぞれ1枚ずつ紙幣を黙ってアーディルに手渡した。この世界の通貨は全て紙幣であり、「pn $」と書いてポンドールと読む。それぞれ5、10、50、100、500、1,000、10,000の単位の紙幣がこの世界の中心の国で製造されている。


アーディルは眉間にシワを寄せ不機嫌に訴えた。


アーディル「1,500ポンドール!?おいおいいくらなんでも安過ぎだろ!ちゃんと査定したのか?」


麻袋の中には20品目のアイテムが入っていた。最低でも5,000ポンドールくらいの金額になると思っていたのだが、アーディルの予想は大ハズレ。20品目の内半分はA、Bランクアイテムが多く、その中でもSランクに近いアイテムも入っている。バーリアからの返事はなく、今にも泣きそうな表情をアーディルに見せた。


バーリア「……無かったのよ。……あたしの求めているアイテムが(泣)」


と顔を両手で隠し続けて、


バーリア「せめて、骨……この際魚の骨でも良いわ。それさえあれば価格は倍になるのに」


チラリと両手の隙間からアーディルの様子を伺う。

このまま引さがらないかなと期待していたが、横からアヌビスが余計なことをさらりと言った。


アヌビス「女主人様、1,500じゃなくてこの品目だと5,000ポンドールですよ。いい加減な査定はやめて下さいね。店の評価下がっちゃいますから!」


EP1(完)

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