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あらすじの通り殺人事件

作者: さば缶

あらすじ:

鐘が鳴り終わると同時に、当主が書斎で息絶えた。

扉も窓も内側から鍵がかかっていたため、現場は明らかな密室だった。

けれど、犯人は実の甥であり、あらかじめ仕掛けておいた針金と滑車を使って遠隔操作で書斎の扉に内鍵をかけたのだ。

さらに、温度計を応用した遅延装置が銃の引き金を引くことで、当主を正確に狙撃する。

甥はちょうど晩餐会の席に座ってアリバイを作っていた

 夏の夜風が海から吹きつける。

月明かりに照らされたダウニング邸の古めかしい外観は、どこかしらドラマチックで、ここで開かれる晩餐会は毎回話題を集めていた。

今宵も格式ばった服に身を包んだ客たちが大広間へ集まり、さざめく声が館中を満たしている。


 「ご機嫌よう。今夜もまた盛大ですわね」

そう挨拶したのは、当主の妹である婦人だった。

すると、彼女の甥にあたる青年がちらりと笑う。「伯父上は書斎で最後のチェックに忙しいそうです。何でもオークションで落札した古い銃の仕組みを見ているとか」

どうやら、今夜の余興の一つとして珍しい古銃の披露があるらしい。


 それからほどなくして、館の奥の方から小さな鐘の音が聞こえた。

夕食の合図かと思いきや、いつまでたっても当主は姿を見せない。

不安になった使用人たちが書斎を訪ねようとするが、扉は固く閉ざされている。

中で倒れているかもしれないと慌てて鍵を探すと、なぜか書斎の鍵は見当たらない。


 とうとう使用人が工具を使って扉をこじ開けたとき、室内の空気はひんやりと静まり返っていた。

暗い書斎の机に突っ伏すようにして、当主の体が動かない。

そのそばに転がっていたのは、オークションで手に入れたばかりの古銃だ。

駆けつけた医師が脈をとり、すぐに首を振る。

「……お気の毒ですが、もう助かりません」


 一斉に人々の視線は窓へ、扉へと向かう。

窓はすべて内側から鍵がかけられ、扉もまた破壊されるまで確かに施錠されていたという。

誰も出入りできるはずのない密室で、当主は何者かに撃たれた。

早くも人々の間には恐怖と戸惑いが広がった。


 そんななか、甥は不自然なほど冷静だった。

「ひどいことだ。伯父上はいずれ館を僕に譲るつもりだとおっしゃっていたのに」

その言葉を聞いていた客の一人が、ぼそりと「妙に気が早い話ですね」とつぶやく。


 翌朝、警察が到着し現場を検証するが、どうやって内鍵を閉め、銃を発射したのかがわからない。

捜査官が首をひねっていると、室内の片隅に機械じかけの小さな装置らしきものが落ちているのを発見する。

それは温度計と細い滑車が組み合わさった、一見何に使うのか不明な道具だった。

捜査官は苦い表情を浮かべ「誰かが時間差で銃を発射した可能性がある」と推測するが、誰がどう使ったかはまるで謎だった。


 ところが、捜査官が甥に告げる。

「犯人はあなたですね。あなたは、針金を通した滑車をドアの裏へ仕掛け、温度変化でバネが動く仕組みにより銃の引き金を引く。装置が作動して当主を撃ったあと、針金を引き込めばドアの内鍵が閉まったように見せかけられる――そうやって密室殺人を実行しました。」


 突然の捜査官の指摘に、甥はひどく動揺する。

「私が殺人を行ったのは事実です。でもなぜわかったんですか?」と問いただす。


捜査官に軽い笑みを浮かべ「これはこの小説のあらすじです」と答えた。

そこには、犯人の正体、手口全てが載っていた


 こうして、現実はあらすじの通りに終結を迎えた。

はじめから犯人とトリックが堂々とあらすじに書き込まれており、捜査官はそれに目を通していた。

すべてはあらすじ通りに進行した“メタ”な密室殺人のまま、幕を下ろすことになったのだった。

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