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初日

出会いと別れの季節、春。

俺は今日から高校生になる。

俺が入るのは偏差値七十超えの都立名門校、瀬田高等学校。

俺はこの日を正直めちゃくちゃ楽しみにしていた。

ただ勘違いしてほしくないのは別に特段学校が好きというわけでもないし、この高校に入るのが嬉しいわけでもない。ましてや高校生になったからと言って恋愛ができるなどと浅はかな考えなんてもってのほか。

ではなぜここまで楽しみにしているのか。


それは…瀬田高には軽音楽部があるのだ‼︎


俺はこの学校の軽音部で再び音楽を始めるのだ。そのために高校入学までの期間を全て費やしてドラムの練習に捧げた。結構上達したのではと自分でも思う。

そんなわけで軽い足取りで学校までの道のりを鼻歌混じりに歩く。

すると、

「おはよう、リュウセイ‼︎今日も陰気な顔してるわね。まるで死体みたい!」

俺のご機嫌は一瞬にして打ち砕かれた。

「そのテンションでそんなこと言ってくんな‼︎結構傷つくんだよそれ!」

「なによ、ご機嫌なあなたが気持ち悪かっただけじゃない」

「酷い言い草だな......スズ!」

月原スズ、俺の中学時代の同級生。中学三年生の一年間ずっと席が隣だと言うクソッタレな運命のせいで、会うたびに絡まれ罵声を浴びせられる。

そして、すぐスネを蹴ってくる。そのおかげで最近何か新しい扉を開きそうになっている。

それだけじゃない、こいつは人のことを考えないのだ。思い立ったら考えもなしにすぐ行動に移す。しかも俺を巻き込んで。

まさに横暴で凶悪な女王様。

そして俺は可哀想な奴隷。

高校になってこいつとはさらばするつもりだったのだが、ここまで一緒になるとは。

俺は無神論者なのだがここまでくれば神もいるかもしれないと思ってしまう。そしてそいつはきっと性格が悪いに違いない。

「まさかあんたがこの高校に入学していたとはね。意外と頭いいのね、びっくりしちゃったわ」

スズは本気で驚いている顔をした。それに俺はショックを受け、

「いつも定期テストお前に次いで二位だったのに...。そうですよね俺なんて成績優秀なお前にとって眼中にないような存在ですものね...」

こんなように卑屈になる。中学生のとき幾度となく繰り広げたなんでもない光景だ。

「なによ、そんな怒んなくてもいいじゃない。本当に感心したのよ。あんたやる時はやるのね」

「ヘイヘイどーも」

そんなふうに適当に返事をしたらスネを蹴られた。だが俺に女王様に逆らう権限はないので甘んじて受け入れるしかない。哀しきかな。

そんな感じでに哀しみくれていると、スズはそういえばと何かを思い出したように言ってきた。

「あんた入る部活決めた?あたし今どうしようかな迷ってて」

ほう。あの横暴で暴力的なスズが悩みとは珍しい。しかも部活のこととは、パッと決めてしまいそうだと思っていたが。

「あたしってほら歌うまくて、昔エレキギターやってたじゃない?だから軽音部に入ろうと思ってたんだけど、」

なんだと。なぜこいつと部活まで一緒にならなければいけない!?第一、昔エレキをやってたなんて初めて聞いたぞ。どうしよう俺のセカンドミュージックライフが台無しになってしまう。せっかく高校からまた音楽やろうと決心したのに。

「じゃ、じゃあスズは軽音部に入るのか…?」

「そう思ってたんだけどねー。入学式の日どんな感じなのかなーって第二音楽室覗いてみたら、なんか思ってたのと違ってね。だから今悩んでんのよ」

ホッと胸をなでおろした。危うく俺の順風満帆な高校生活に支障をきたすところだった。


そうこうしているうちに瀬田高についた。まず最初に目に入ったのは一年昇降口の前の人だかりである。

「そういえば今日は初日だからクラス分けが貼り出されるのね」

嫌な予感がするな。中三の席替えのとき幾度となく味わったあの予感。おいニーチェよ。神は死んだのだろう?ならば流石に違うクラスになっているよn…

「うわ、またあたしリュウセイと同じCクラスだ」

うん、知ってた。

「またあんたと同じクラスとはね。そろそろ飽きたわよ」

「こっちの台詞(セリフ)だバカ。もうお前と顔を合わせること自体懲り懲りなんだよ」

「誰がバカだッ」

「いて」

また蹴られた。心なしか気持ちいいかも?

クラスを確認したところで、俺たちは上履きに履き替えて、1-Cと書いてある教室へと向かった。

その途中、音楽準備室の前を通ったとき、何やら楽器の音が聞こえてきた。

「リュウセイ、この音って」

「ああ、ドラムだな」

この曲は最近リリースされた難しいで有名なMr.Red appleのララライラックじゃないか。

…いやそんなことより、

俺のようにたかが春休みという短い期間をドラムに捧げた程度でも分かる。

このドラム、ものすごく上手い。全然リズムが崩れないし、ダイナミックさに溢れている。しかもただダイナミックなだけではなくこれはボーカルを引き立てるためのものだ。俺がしたいことの全てが詰まっている。

こんなに上手い人がこの学校にいるとは、スズも見る目がないな。

しかしどんな人なんだろうか。

そう思い、少し覗いてみる。

そこには楽譜や楽器に溢れている部屋があり、その中心には手入れのされた綺麗なドラムと、くせっ毛のかわいらしい女の子いた。丸く大きな瞳と小さな背、スズとは正反対の外見をしている。まさかこんな人形みたいな少女があのようなダイナミックな演奏をしていたとは。

「なによ、上手い人いるじゃない…。」

スズが見に行ったときは彼女は不在だったようだ。

この技術俺にも是非御教授頂きたい。

俺たちが美しいドラムに耳を澄ませていると、

『キーンコーンカーンコーン』

チャイムの音が聞こえてきた。

「おいスズ行くぞ!初日から遅刻はシャレになんねぇぞ」

そう言い、1-Cと書かれた教室へ急ぐ。


教室に入るとクラスメイトたちはすでに着席を済ませていた。

視線が俺たちに集まる。とても恥ずかしい状況だ。

「なにジロジロ見てんのよ!私がそんなにかわいいからって、見世物じゃないのよ‼︎」

こいつはもっと恥ずかしい。

(おい、暴れるんじゃない!遅刻した俺たちが悪いんだからとっとと席に着くぞ!)

そう小声で言うと、

「何、私が悪いって言いたいの!?そもそもあんたがドラムをずっと聞いてるほうが悪いでしょう‼︎」

「お前だって聞いてたじゃねぇか‼︎」

「うるさいわね‼︎‼︎」

「いて」

また蹴られた。

そんな俺たちが他愛もない喧嘩を披露していると、周囲が

「ハハハッ」

「なに朝からイチャついてんだ」

「夫婦かよッ」

などと心にもないことを言いながら笑われた。

当のスズはというと、顔を赤く染めながら、

「だっ、誰がこんな奴と!次言ったら捻るわよ‼︎」

と非常に強キャラらしい台詞を吐き捨てて、そっぽを向いてしまった。

俺はそんなスズを片目に自分の席に着こうとしたのだが、席が分からない。ただ、空いている席は二つ、そしてそれは隣同士だ。これはつまりそういうことだろう。念の為先生に確認をとろうとしたが、

「あなたたち初日から遅刻とはどういう了見ですか?次から気をつけてくださいね」

と席を聞く前に怒られてしまった。それにしてもこの先生若いな。新任だろうか。

「えーと、日高くんと月原さんですよね、そこの後ろの端の席ですね。窓際が日高くんでその隣が月原さんです」

......ほらな。

しかし抗議したところでなんの意味もなさないことだろうし、ひとまず席に座ろう。

「ほら月原さんも突っ立ってないで早く座ってください。ホームルーム始めますよ」

先生に促されスズは不満げに席についた。そして俺に囁く。

「...また隣ね」

そう言うと何事もなかったかのように前を向いた。


「それでは高校生最初のホームルームを始めたいと思います。今回は初回ということでみんなで自己紹介をしましょう」

新たな学校での立ち位置を決める上での最も重要な要素、それが自己紹介だ。

どんなことでも滑り出しは大事だ。最初で全ての良し悪しが分かれる。俺はこのために寝る間を削って自己紹介を考えてきた。真面目に答えるだけではクラスの皆は振り向かない。笑いとインパクト、この二つがポイントとなってくる。さて俺の自己紹介を超える者は現れるかな?

「はいでは最初は私から行きましょう。名前は田中明日香です。二十三歳で担当科目は社会です。趣味はピアノを弾くことで……、」

その後も次々と紹介を終えていった。そしてとうとう回ってきた俺の番。皆のもの畏怖するがいい、俺の自己紹介になぁ‼︎



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