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第九十三話 よく解らん

 「美味っ!」

 塩茹でされて甲羅の金色が薄くなり、やや赤みが増しているが、コレが本場の朱金蟹である。前世のタラバ蟹の三倍ほどある大きなカニ脚を、美味しくいただく。


 「朱金蟹は時期外れだから冷凍ものだったんだけど、そんなに味は落ちてないと思うわ」


 メロス母の言う通り、旨みはバッチリだ。昨年、メロスに干物でもらった青銀鮭も、今回は解凍ものとはいえ、刺身にされていた。コレもまた、絶品!


 「美味しい⋯⋯」


 セーラが食べているのは、持参したジャガイモを煮込んだシチューだ。メロスん家で飼育されてる鳥魔獣肉が、これまた美味い。ジャガイモと合うな〜。


 基本的にメロスの家は、木こり──林業経営をしているが、他にも鳥魔獣や牛魔獣などを家畜化していた。こちらは、メロスの祖父母、そしてメロス母が世話をしているそうだ。

 本業の林業の方は、週に一度は木材を積んだ魔牛車で、少し離れた遠くの街まで運んで売るらしい。


 とにかく敷地が広く、野生の魔獣たちのテリトリーとも近いことから、彼らの襲撃を避けるため、敷地には様々な防犯魔導器が設置されているのだとか。

 大小ある家畜小屋などの木材建築物も母屋と同じく、800年前から建てられたもので、時折、修繕するものの、基本的には当時のままだそうだ。


 そして今、木目の美しい一枚板のセフィドラのテーブルを挟んで、メロスのお祖父さんとお祖母さんは、オレっちの目の前の席に並んで座っていた。


 どちらもラオンで、白灰毛のお祖父さんは、最初の挨拶を交わしただけで黙々と食べ続け、白金毛のお祖母さんは『メロス、メロス』と連呼しながら、メロスに話しかけていた。

 二人とも250歳近くだとは思えないほど背筋がピンとしており、動作もキビキビとしている。これなら獣人の平均寿命である300歳をも超える、御長寿さんになれるだろう。






 ◇◇◇◇◇


 次の日、さっそく仕事場を見せてもらった。

 仕事場と言っても、セフィドラの大森林の中だが。


 「こうして斧に風を纏わせて──」


 メロス父──ルブロスさんがドコッと一撃すると、巨大な幹に切れ目が入った。幹回りはウルドラシルと同じく十メートル以上もあるが、セフィドラの方が柔らかいため、ドコドコすると、すぐに三分の一ほどまで切れ込みが入る。

 地味に、一撃づつの攻略。高レベルの風魔法でスパッとする方法もあるが、魔力消費が激しいので1日二本が限界なのだそうだ。

 やっぱ戦闘用魔法は、仕事向きじゃ無いんだな。とか思ってたら、ニオ姉さんが、風魔法の爪攻撃で、ザックリやっていた。


 「この攻撃でも、ダンジョン中間層の魔物は倒れないんだ。魔核部分が異常に硬いんだよ」


 でしょうな。魔物は魔核を砕かないと、すぐに復活してしまう。そして、砕いた魔核は砂になってダンジョンの地に還るのだ。多分、それが再生を繰り返して、新たな魔物の魔核になっとるんだろうが。リサイクル率、高し。


 セーラを除けば全員風魔法を持っているので、オレっちたちも特訓することにした。

 風魔法の付与で軽くした斧に、さらに風魔法をまとわせる。


 「ダーッ!!」


 木の幹に食い込む。──浅っ!!

 ビックリするほど浅い。魔法を使ってこの程度。ここまでくると、チートどころか平均までいかねーんじゃねぇかと危惧するレベル。


 「え~い!!」


 同じように斧を振ったエイベルの方が、切れ目が深い。コレは単純に、風魔法のレベル差だろう。


 「シャーッ!!」


 メロスが、風魔法の爪攻撃をしていた。この木々のなかで火炎爪は使えないので、風オンリー。五本爪の跡が凄まじい。


 セーラは、メロス妹のミオちゃんと、お昼のお弁当運びやそこらに生えている花を摘んでいた。近くの川にも行ったようで、大きなザリガニを獲って帰ってきた。(もちろん、食用)


 ズドーン!ドォォン!!


 地面が大きく揺れ、土煙が立ちのぼる。そうして切り倒したセフィドラの木を、今度はルブロスさんとニオさんが、ある程度の大きさにまでカットする。オレっち、エイベル、メロスは、枝部分(枝とはいえ、前世の木の幹並み)を担当。


 そのうち斧にまとわせる風の制御が上手くなり、調子に乗って、ドンドン枝を切っていった。

 ちなみに、試しにオレっちも爪攻撃をしてみたが、木の表面を削っただけに終わった。切ないなぁ⋯⋯



 次の日は、一昨日と前日に切り倒した木を、さらに細くカット。とにかく恐ろしく太い幹なので、カットしまくりなのだ。オレっちたちは、周りで見ているだけだったが。

 暇だったので、何か役立つことをしようと薪割りをしてみた。

 ただ割るだけの単純作業なのに、意外と難しい。中途半端に途中で切り損ねたり、真ん中を切ったつもりだったのに、ズレて、片方が太かったり細かったり。


 「どうせ燃やすだけだから、気にすんな!」

 「だね〜!」


 メロスとエイベルがフォローしてくれたが、君たちは均等に割れてるだろう。ハァ⋯オレっちって、ホントに不器用だな⋯⋯



 また次の日には、それぞれ四頭の牛魔獣が引く大きな魔牛車二台で、カットしたセフィドラの木を、街まで運んで行くことになった。往復で、丸一日は掛かるとのこと。

 オレっちとエイベルは、ニオさんの魔牛車の御者席に相乗り。メロスはもう一台のルブロスさんの御者席に座った。セーラは家畜の世話を手伝うからと、お留守番。


 セフィドラの大森林を抜け、近くの町々を通過し、一番大きな街へと着く。

 マルガナよりも天井の高い、大きな木造の建築物が多い。そして、ポラリス・スタージャーのどこでもそうであるように、獅子獣人や熊獣人、空には鷲や鷹の鳥獣人たち──身長が高くて体格のいい人たちばかりなので、圧倒される。コレばかりは慣れないなぁ。






 ◇◇◇◇◇


 「──オイ、そこの花をつけた小獣人!この道は、俺たちのナワバリなんだ。通りたかったら、金出しな!」


 大獣人の街で、つい調子にのって辺りをフラフラしていたら、メロスたちとはぐれてしまった。

 人通りが少なく、道が細くなってきたこともあって、急いで戻ろうと踵を返した途端、ガラの悪い豹獣人とバッファローに似た牛獣人の少年たち二人組に、前後を塞がれてしまった。

 どっちも高身長で、オレっちをニヤニヤしながら見下ろしている。


 ヤバイ!!


 オレっちは、ベストのポケットからドンチクポンポンの種を数個取り出し、右手に魔力を込めて握りしめた。そして、前を塞いだ豹獣人の少年に向かって、掌を突き出す。


 「うわっ!?」


 上手くいった!

 五本のドンチクポンポンは、画びょうのように尖ったネギの花を勢いよく咲かせ、豹獣人少年の腹に直撃した。まだ花は小さく、大したダメージにはならないが、勢いと驚愕で相手は体勢を崩す。


 セーラのアドバイス通りに魔石粉末を土に混ぜたら、成長速度が倍加して、その種を何度も植えた結果、すでにオレっちの魔力に反応するようになっていたポンポンは、種から一気に花を咲かせるようになったのだ。

 薔薇(ガラティア)の時は失敗したが、こっちは大成功だった。


 このまま、走って逃げる!!人通りの多い場所まで走れば──


 「キュ!?」


 スコン、ドタッ!


 大コケした──いや、土魔法で足場を崩されたのだ。


 「手間、かけさせんなよな!」

 バッファロー少年の大きな手が、オレっちの首に巻いていた黒いスカーフを掴む。

 「こ、この小獣人ヤロー!小癪なことしやがって⋯⋯!」

 ドンチクポンポンが刺さった腹を押さえながら、豹獣人の少年が近づいてきた。


 その拳が振り上げられる。頬に、焼け付くような痛みが奔った──





 ◇◇◇◇◇ 


 「タロス〜?どこ行ってたの〜?捜したんだよ〜?」

 アレ?エイベル??オレっち、今、頬を殴られて──


 「エ、エイベル⋯⋯オレ、なんでここにいるの⋯?」

 「え~?タロスが〜ここに〜戻って来たんだよ〜?」

 「え。いつ!?」

 「たった今だよ。お前、どうしたんだ?変だぞ?いつもより」

 メロスが紫の三白眼を細めて、オレっちを見る。


 いつもよりって⋯⋯いや、それより、さっきのは何だったの!?オレっちは確かに、大獣人の二人組みに絡まれて──頬は⋯⋯痛くないな。

 オレっちには自己治療スキルがあるから、多分、自分で治したんだろうけど⋯⋯

 もしかして、アレは白昼夢!?オレっち、夢でも見てたの!?


 え~い!よく、解らん!!

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