第九十一話 獅子と猫の家
地下都市観光よりも、ある意味濃い体験(借りパク宇宙人との遭遇)をしたオレっちは、キックボードが気に入ったエイベルと共に、それぞれチップ(100ベルビー)込みで500ベルビーを、ラモンとミーナに支払い、洞窟住居の出口で別れた。
「また、来てね!案内しきれてない洞窟施設は、まだまだいっぱいあるから!」
ラモンの言葉に納得する。
そりゃ、地下都市の壁周り全域だから広いわな。しかも、上にも下にも通路があるから、部屋数が、ここはアリの巣かっ!?って、ぐらいに多かったし。
さすがに個人宅は個別の鍵の付いた扉だったけど、結局、モグランたちの住処は共同スペースが多いんだよな。大浴場もあったし、広い食堂もあった。食堂の方は、観光客にも開放されてたけど。
「キュ?セーラとメロスは、観光しないの?」
きっちり待ち合わせた時間で再会したオレっちたちだが、セーラとメロスは、このまま魔馬車に戻って、先に進むと言う。
「ん〜⋯⋯もうちょっと寝たいし、それなら魔馬車の中で寝た方がいいと思うの」
「オレもだ。どーせまた壁ばかりの道だしな。このまま眠って、目的地に着いた方がいい」
「ふ〜ん⋯⋯まあ、帰りもここを通るしな。じゃあ、今度ってことで!」
次に立ち寄った時、メロスとセーラを連れて、またラモンたちに案内を頼めばいいか。それに、メロスはともかく、セーラは、仮眠所でよく眠れなかったのかもしれない。旅慣れてないと、無意識に緊張して、眠りが浅くなるからな。
◇◇◇◇◇
魔馬車で再び、神トンネルを移動していく。次は、終着地──ユーロシアンだ。大きな街ではあるが、ポラリス・スタージャーの王都からは、かなり離れている。
そもそも王都は、西方だもんね。ユーロシアンは、東方に近い街だから、余計に距離がある。
⋯⋯。なんだか眠い。地上時間だと、もう深夜だもんな。よし、寝よう。グー。
「タロス〜、タロス〜!着いたよ〜、起きて〜!」
「⋯⋯あれ、もう着いたの⋯?」
おかしいな〜?さっき目を瞑ったばかりだったのに⋯⋯
目を擦って、う〜んと背伸びした後、座席の下に置いてあったリュックを背負う。
終着地だから、焦る必要はない。
「ほら、サッサと降りるぞ!」
「う、うん⋯⋯」
焦る必要がないというのに、せっかちな猫が急かすので、ボーっとしたまま、人の流れに乗って下車した。
「よし、昇降機に乗るぞ!」
素早く列に並ぶメロスの後ろに、セーラ、エイベル、オレっちが続く。
あふ⋯⋯今、何時だっけ?
左手首の白い毛に埋もれている腕時計を見てみる。
朝の──4時5分か。地上じゃ、まだ太陽が昇ってないかも。あ、でも、上に着く頃には出てるかな?
タッタッタ。
昇降機から改札口のある階段へと向う。さすがにこの時間じゃ、地下に降りる客は少ない。地上へと上がる客はそこそこいるが。
「太陽の光だわ──!」
すでに太陽が顔を出していた。セーラが嬉しそうに、空を見つめる。
「やっぱ、地下の光と太陽の光じゃ、全然違うな」
こうして視界いっぱいに広がる白々とした光を見ると、清々しい気持ちになる。
「ん〜⋯⋯空気も〜違うよ〜」
「そりゃあ、風があるから。あと、土と草の匂いもするな。ラモグラン道の内部は雑草でさえ生えてないから、こんな微かな匂いさえしなかったもんな〜」
やっぱり、ラモグラン神の聖遺物は、トンネル内のメンテンナンスも兼ねてるんだな。その弊害として、木や花も育たないけど。
「ここからは、魔牛車移動になる。オレの家は、ユーロシアンから三時間ほどかかる町の⋯外れにあるからな」
「三時間も魔牛車に乗るの!?」
「途中の町で一度乗り換えるが、どっちにしても魔牛車だな」
「⋯⋯今更だけど、ビスケス・モビルケへの留学って、マルガナじゃなくても良かったんじゃない?アモリンにだって学校はあったのに」
セーラの指摘通り、鳥浮船で空を移動する必要のある遠くのマルガナより、神トンネルの小獣国側の終着地であるアモリンの学校の方が、距離的には近い。ただ、学校の規模は、全く違うが。
「マルガナの第一中央小獣学校は、オレの父方の曾祖父さんが卒業した学校なんだ。曾祖父さんも、小獣人だったから⋯⋯だから父さんが、ビスケス・モビルケに行くならそこに行けって」
「なるほど。まあ、第一中央は、留学生も多いしなー」
だから、学生寮もデカい。ウルドラシルの間に建つ木造建築物だけど、構造的にはマンションみたいな造りだしな。
早朝から多くの人が行き交うユーロシアンの街は、魔牛車の数も多かった。
メロスの案内で、中距離用の魔牛車に乗り込む。途中、大きな街に停車し、次の町でまた別の魔牛車へと乗り換える。
ユーロシアンを出てから二時間──お腹が空いたので、停留所近くの売店でおにぎりやパンを買って、魔牛車の座席で食した。
おにぎりもパンも、小獣国のサイズより二倍ほどデカい。満腹。
陽が上へと昇るにつれ、気温がグングンと上がっていく。それでも冷却魔法具のスイッチは、まだオンにしていない。セフィドラもまた、ウルドラシルと同じく巨大な木であり、その木陰の道は、非常に涼しかったからだ。
それに、ここはウルドラム大陸の北。夏とはいえ、マルガナとは平均気温そのものが違う。
「よし、ここから個人魔牛車で移動するぞ!」
「えっ⋯⋯この町じゃないの!?」
魔牛車を降りた途端、ようやく着いた感があっただけに、セーラが驚く。
そーいえば、魔牛車に乗る前に、町の外れって言ってたっけ。
「ここがオレの家に一番近い町なんだが、歩くと二時間もかかるんだ。魔牛車なら、三十分ぐらいで着く」
「そ〜なんだ〜」
「セフィドラの大森林の中なんだな」
この町も、周囲をセフィドラの木に囲まれている。メロスの家は、大森林のどこかにあるのか。
それから約三十分──個人魔牛車の窓から見える外には、車道沿いの家や建物が何軒かあり、メロスの家は思ったほど孤立した感じではなさそうだ。
「そろそろ、家が見えてくるぞ!」
メロスが言うと同時に、ズドドーンと、近くで大きな激しい音した。音だけでなく、地面が大きく揺れる。魔牛車は魔馬車と違って車輪付きなので、当然、大きく跳ね上がった。
「じ、地震!?」
「いや。多分、父さんか姉さんが、木を切り倒したんだ」
「き、木ってセフィドラの木よね!?あの大きな木を、一人で切ってるの!?」
セーラの声がひっくり返る。
オレっちも驚いた。ウルドラシルと同じく、この幹周りが十メートル以上もある巨木を!?しかも、父さんか姉さんって言った!?
「風魔法のレベルが高いんだ。父さんは斧だけど、姉さんの場合、素手で切り倒してる。⋯⋯姉さんはダンジョンの冒険者でもあるから、訓練がてらにな」
「冒険者なんだ!?」
そういえば⋯⋯前に、お姉さんが大武闘会に参加したこともあるって、手紙に書いてた!
「ねぇねぇ〜あの家って〜、もしかして〜メロスの家〜?」
エイベルの声にハッとして大きな木々の間を見ると、それらしき木の家──屋敷?が見えてきた。デカい。しかも、母屋だけじゃなく幾つかの建物も見える。
⋯⋯ここに家族だけで住んでるの!?
獅子の⋯+猫の家って──デカっ!!




