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第八十九話 モグランのお宅拝見

 あの幼い子供たちの視線の意味はわからなかったが、チケット売り場から離れても追いかけてくるわけでもなかったので、そのままエイベルと共に洞窟の中へと入っていった。


 どうやら入り口は広間になっているらしく、床には赤褐色やオレンジ色、淡いセピア色のレンガがモザイク画のように美しく敷かれ、四方には底まで澄んだ水が流れていく水路が整備されていた。


 案内文を読むと、この真下から地下水が湧き出ていて、町の上水道管に直結しているらしい。

 正面のレリーフは、モグランたちが町を作っていく様子を彫ったもので、なかには水が噴き上げている描写もあった。

 トンネル内を拡げて、一つの町を作る──どれ程の永い時間を掛けて、大勢のモグランたちはそれを成したのか──

 

 ラモグラン神は趣味として穴を掘ったのかもしれないが、モグランたちにとっては、トンネル自体が聖遺物だったに違いない。

 そして、ラモグラン神がこの世界を去った後、その管理、保存に加護種としての義務感を持ったのだろう。

 たまたまそれが、その後の時代で、国と国を結ぶための交通網として必要不可欠な道となっただけで、モグランたちにとっては、メジャーでもマイナーでも、どっちでもよかったのかもしれない。


 いや、でも、ラモグラン神の神としての評価が爆上がりした訳だから、喜ばしいことだったのか?(それまでは、ただの穴掘りまくりの迷惑神だった)

 そんな事を考えながら、奥にある空洞へと入る。


 「穴が6ヶ所⋯⋯」

 ガランとした空洞の壁には、大きく開いた穴が6ヶ所あり、それぞれの入り口の壁枠は、花や植物の彫刻で華やかに飾られていた。

 

 「どの道も〜、旧モグラン住居跡に〜続いてるんだって〜!」


 ほう。観光用のために、古き神々の時代に住んでいたモグランたちの住居を当時のままに展示しているのか。あ~、前世の某国の遺跡でもあったな、そーいうの。

 でも、前世の洞窟住居って、宗教上の理由とか税金対策とか住居不足だとか⋯⋯割と暗い事情から作られたもんだけど、ここは全くの別モノだな。うん。


 「さて。どの穴に進むべきか?」


 他の観光客たちも、一旦立ち止まって悩んでいる様子だった。

 実はこの遺跡、ガイドなどはいない。御自由にどうぞ的な感じなのだ。

 一応、矢印と簡単な道案内が書いた石碑があるが、それだけだ。つまりそれは、どの穴も一つに繋がっているから、どこからでも出れますよ──ってことなのかな?ただ、全ルートの所要時間が約三時間って書いてあったから、相当、奥が深いのは間違いない。


 「ねぇねぇ、頭に花をのせてるお兄ちゃん!」


 不意に、甲高い子供の声がした。声のした方を見ると、斜め後ろにチケット売り場にいたモグランの子供たち──オレっちたちよりも小さな男女のモグラっ子たちがいた。顔つきが似てるから、兄妹?


 「ここは昔の住居跡だから、つまんないよ。それより、ボクたちの家の方が面白いよ?一人、500ベルビーで、どう?」

 淡いピンク毛の兄(?)モグランが、オレっちのベストの裾を引っ張った。


 商売してる!?


 「お兄ちゃんの翼、変なの〜。ねぇ、ウチの庭で飛んでみてよ!」

 青みがかった黒毛のモグラっ娘が、エイベルの翼を面白そうに見ていた。

 「ボクも見てみたい!じゃあ、その代わり、400ベルビーにまけておくよ!よし、コッチだよ!ついてきて!」


 オレっちたちの返答を待たずに、兄妹モグラン?は、サッサと歩き出した。行き先は──目の前の6ヶ所の穴の一つだったが。


 「タロス〜どうする〜?」

 「実際に使われてる住居の方が面白そうだしな。──行こう!」


 モグランの子供たちは地下通路を二分ほど歩いた後、途中にあった扉の前で止まった。そして、周辺の観光客が途切れた瞬間、扉に手をかざす。


 あっ、魔法印!?

 おそらく、モグランたち共有の魔法の鍵なのだろう。彼らに続いて扉の中に入る。


 細い地下道が続いていた。何ヵ所か分かれた道があったが、二人は迷わず早足に進んで行く。

 そして、突き当たりの壁の扉を、また魔法印で開ける。出た先は、生活感溢れる部屋の中だった。


 「ここがボクたちの家。この部屋は、服とかの置き場所⋯っていうか、ほぼ物置なんだけど」


 ああ、うん。服が⋯主にベストと靴下が散乱してるね。あと、洞窟の中だけど、神トンネル内の土壁だからスゴく明るい。


 ラモグラン神の遺した神器は、かなりの広範囲で効果を発しているんだな。一説によると、神力だけじゃなくて、外部からの魔素エネルギーを循環させている可能性が高いらしいけど。

 あと、闇スキル持ちの『暗闇』も、このトンネル内じゃ数分しか効果が保たないっていう話も聞いたな。大雑把なようで複雑な、謎システム。


 「お兄ちゃんたち、コッチに来て!」


 呼ばれてそこに行くと、庭に出た。空はないけど、天井が高い広い空間で、ブランコやシーソー、馬魔獣を模した乗り物魔導器などが置いてあった。

 砂場もあり、周りには、低い木や花が植えられている。それらは、このアナナグラのアチコチに植えられた植物と、全く同じものだった。


 花⋯花と言えば──去年、ウルドラで買ってセーラにアドバイスをもらったガラティアの花は、上手く育たなかった。

 魔力不足を補うために魔石の粉末を土に混ぜた結果、芽が出て育ちはしたが、オレっちの魔力に反応しなかったのだ。結局、観賞用のタダの薔薇の花となった。

 ネギの花──チクチクポンポンの方は、一つレベルが上がり、ドンチクポンポンとなって、少しは使えるようになったが。



 「ねぇ、飛んでみてよ!」

 「空がないから~ちょっとしか〜飛べないよ〜?」

 「いいよ!」


 エイベルは、荷物を降ろして皮膜翼を広げた。オレっちはその様子をチラ見した後、彼らの住居を見渡す。庭を中心とした円形状の部屋の数々──好奇心のままに、魔法印の掛かっていない扉を開ける。


 400ベルビー分は、好き勝手させてもらうぜ!


 「ふんふん。ここは、勉強部屋かな?」


 机と椅子があり、本棚には大小の本が乱雑に並べられていた。

 おっと、鋼鉄の(ジー)レム発見!あの男の子の部屋だったか。


 そのままフローリングの床の上を歩き、奥の扉を開けると、中は真っ暗だった。

 扉から入る光で中を見ると、ベッドがあった。どうやらここは、寝室のようだ。光を発する壁にセフィドラの分厚い板を打ちつけ、遮光しているらしい。


 ⋯⋯そーいえば、今、地上時間では夜中なんだよな。あの子たち、地上時間に合わせてないんだ。学校⋯いや、神殿に行く時間って、どこに合わせてるんだろう?

 いや、神殿も24時間なのか?謎だ。


 次は、隣の部屋へと入る。台所だった。まな板が置いてある流し台の下には、踏み台が置いてあった。

 もしかしてあの子たち、自分で料理してるの?まだ、6歳か7歳ぐらいだと思うんだけど。

 そんな事を考えつつ、奥の扉を開ける。食糧庫だ。棚には、たくさんの食材が置いてあった。果物もあるし、ジャガイモも山のように積んである。


 「ん⋯?」


 チーズらしき円形状の塊が、床に落ちていた。

 あ~あ、仕方ないな⋯⋯元に戻しといてあげよう。

 拾い上げて棚に戻そうとした時、その下に十五センチほどの人形が置いてあった。目を瞑った仰向けの人形──めっちゃ、リアル。しかも、人型だ。モグラン人形じゃない。


 服も随分と精巧な──髪の毛とか皮膚の感じも⋯⋯アレレ?胸が上下に揺れてない?


 えッ!?もしかして──呼吸してる!?

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