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第八十八話 地下都市〜アナナグラ

 地下のラモグラン大獣道に戻り、新たな魔馬車に乗り込んで席に座ってから、オレっちは目を瞑った。そして、今──そこからの記憶が、丸ごと無い。


 「タロス〜、着いたよ〜!起きて〜!」

 「ん〜⋯⋯?」


 隣の席にいたエイベルにお腹をポンポンされて目が覚めると、すでに地下都市へと到着していた。思いっきり、爆睡してた。


 「ほら、サッサと降りて、食いに行くぞ!」

 メロスが自分の魔法鞄(マジックバッグ)を持って、立ち上がる。

 「あ⋯うん!」

 慌てたのはオレっちだけで、エイベルやセーラは、静かにメロスの後に続いていた。


 あふっ⋯ああ、よく寝たな〜。お腹もペコペコだし、何食べよう?

 そんなことを考えながら、魔馬車の外に出た。出るとすぐに、大勢の人が行き交う町が見えた。


 「キュッ!?」


 オレっちは、すっかり忘れていた。途中下車した前の街は、昇降機で改札口に上がり、次に階段を登った後に地上の街へと出たので、その感覚のままだったのだ。

 ここは、昇降機や階段で地上に出る必要の無い、地下都市。共に魔馬車を出た人々は、改札口を通ると、あっという間に町中へと消えて行った。


 「ここが地下都市──アレ?」


 なんかイメージと違う。確かに周りは土壁だけど、なんだか緑が多い。建物も、木造のものが目立つ。


 「⋯⋯フツーの獣人の町って、感じだな⋯⋯」

 「この近くはな。奥に行けば行くほどモグランたちの住む場所に近くなるから、雰囲気が変わる。ここは、観光客用のホテルや飲食店、土産物店エリアだ」


 なるほど。


 「とにかく、腹ごしらえするぞ!少し歩くが、俺がいつも行く店に行く。この辺の店じゃ、価格が高く設定されてるからな!」

 「ボッタクリ価格なんだ⋯⋯」

 「観光地だしね〜」

 「観光地だとそんなもんなの?」

 セーラが首を傾げた。セーラは多分、国内旅行にも行ったことがないのかも。


 「この魔馬車の停留所近くは、大獣人の経営する店の中でも、数年ごとに入れ替わる店が多いんだ。しかも、最初から地元向けじゃない」


 だから思いっきり、観光客用の価格設定なんだな。


 「じゃあ、もしかして、これから行く店って、モグランの経営してる地元の店?」

 「いや、地元の店ではあるが、大獣人の店だ。モグランたちは、こうした飲食店関係の職には就かない。彼らは、男も女も、ラモグラン道関係の仕事が主だから出張も多いしな。常にこの町にいるのは、年寄りと子供だけだ」


 ガーン!地下都市=モグランの町!のイメージだったのに!


 「そもそも、このアナナグラには、モグランは人口の三分の一ぐらいしかいないしな。ビスケス・モビルケの地下都市は、半分以上、モグランらしいが⋯⋯」


 あ~⋯⋯基本的にモグランは、小獣人だからな。ここは地下とはいえ、地表は大獣人の国。穴を掘って町を作っても、大獣国の町の一つだし。


 ラモグラン神は御子を遺さなかったから、モグランたちには中心となる半神血族がいなかった。だから、一箇所の地下都市には集まらなかったし、神トンネルが大陸中に張り巡らされてることもあって、分散を余儀なくされた経緯がある。


 「ほら、サッサと歩け!あの店は、後三時間ぐらいで閉まるからな!」

 「キュ?24時間じゃないの!?」

 「町全体が24時間稼働でも、それぞれの店の開店時間と閉店時間は別々だ」


 そりゃそうか。寝て休憩しないと働けないもんな。ふ~ん⋯⋯個別に昼と夜の時間を決めて、経営してるんだ。

 年中昼な上に魔馬車が24時間運営だから、ここに住むのは大変だろうな。そういえば──


 「学校とかはどうなってんの?」

 「この町には、第2レベルクラスまでしかない。しかも、神殿が学校を兼ねてるんだ。だから第3からは、近くの地上の町に通ってる。魔馬車──いや、魔牛車専用の別ルートで通学してるって話だ」


 へー、別ルートで、神トンネルをどこかの町と繋げたのか。一体、全部で何本ぐらい道を作ったんだろう──土産用に、地中地図とか売ってないかな?


 「不便ね。地下にこだわらず地表に出ればいいのに」

 セーラの言う通り、生活するには地上の方が便利だけど──


 「数は少ないけど、地上で暮らしてるモグランたちもいるからな。でも、モグランの就職先を考えると⋯⋯」 

 結局、地下にいるような気がする。


 「タロスの言う通りだな。モグランたちはラモグラン道の管理を任されてるし、何より、先祖から受け継いだ家が地下にある。他の加護種と結婚してその子供がモグランじゃない時だって、次にモグランが生まれた時のために、家を維持してるぐらいだ」


 徹底しとるな。モグランたちはまだまだ数多く生まれてるから、そうしてるんだろうけど。






 ◇◇◇◇◇


 「刺身定食、美味かった〜!まさか地下都市で、海産物三昧とは!」

 「お魚とエビ〜美味しかった〜!ピリ辛ソース〜好き〜!」

 「キノコと貝って合うのよね〜。野菜だって負けてないけど!」


 メロスの行きつけの店は、トナカイ似の獣人親子が経営している、こじんまりとした海鮮料理の店だった。

 メニューは種類が多く、海産物を使用した定番からオリジナル料理まで、とにかく幅が広かった。昔からここで商売してるだけあって、地元の人たちだけじゃなく、オレっちたち観光客も知ってる人は知ってる、って店らしい。

 トンネル街だから、海の幸って塩漬けの魚ぐらいだろうと思ってたけど、嬉しい誤算。

 ラモグラン大獣道の小道──二車線ぐらいの道幅の魔()車専用道があって、そこが港町に繋がっているのだとか。⋯⋯ってことは、このアナナグラ、位置的には海に近いのかな?


 「あふ⋯⋯食べたら、眠くなっちゃった⋯⋯」

 「⋯⋯俺もだ。今回は魔馬車内で寝られなかったから⋯⋯ふわぁ」


 セーラとメロスが半眼になって、欠伸をした。

 時刻は、夜の9時過ぎ。魔馬車内で爆睡してたオレっちとエイベルはともかく、眠れなかった二人は、もうフラフラだった。


 「駄目だ⋯⋯近くの仮眠所で休憩しよう。二、三時間眠ればスッキリするだろ。タロスたちは、どうする?」

 メロスがオレっちとエイベルを見た。


 「観光する!まだ、モグランたちの家も観てないし!」

 「僕も〜!ず〜っと〜寝てたから〜眠くないし〜」

 「そうか。じゃあ、二⋯いや、三時間後にこの場所に集合ってことにしよう」


 オレっちたちは、食事をした飲食店前の道で二手に分かれた。

 メロス作の手描き地図では、この通りのすぐ奥に、モグランたちの『洞窟住居』があるらしい。


 この町は魔馬車の停留所を中心に、その周りを観光客用の宿泊エリアが取り囲み、次に地元民のための商業施設や飲食店、そして大獣人用の住宅があり、最終的にはそれらを取り囲んでる壁に、一部観光用に開放したモグランたちの住居がある。


 「え~と、観光用の洞窟の入り口は──ああ、あそこだな」

 ハッキリ言って、地図無しでも観光客の流れから、場所は丸わかりだった。


 「わかりやすいね〜⋯⋯」

 「ああ、うん⋯⋯だな」


 人の流れだけでなく、遠目でもすぐ分かる洞窟の正門に、エイベルと二人、スタスタと足早に向かう。


 正門の壁には、ラモグラン神らしき姿が、ドンと彫り込まれていた。そして、数多くのモグランの彫像が、それに続いている。レリーフってやつか。


 え~と、なんかこういう横並びの構図、どこかで見た覚えが──ああ、前世の遺跡の壁画でよくあるやつだな。

 色こそつけてないが、浮き彫りした神とその加護種の姿は壁ごと淡く発光しており、神秘的な雰囲気を醸し出していた。


 「タロス〜、チケット買うよ〜!」

 「あっ、そうだ!入場料払わなきゃ!」


 他の観光客と同じように、入場チケットを買うための列に並ぶ。

 チケット売り場の職員であるモグランのお年寄りたちが、慣れた様子で魔法紙幣を受け取り、お釣りを渡す様子を見ながら、前へと進んで行った。


 「おや。アンタ、チュラーだね。久しぶりに見たよ」


 頭部が白毛、首の下からがピンク毛のモグランのお婆さんが、エイベルを見ながら言った。


 久しぶり⋯⋯?

 言われたエイベルも、横にいたオレっちも、すぐには反応できなかった。


 「ああ、すまないね。この町には飛べる者たちは住んでなくてねぇ。観光客でも大獣人ばかりだから、小獣人の翼持ちが、つい、珍しくて」

 「え~と⋯そうなんですか〜?」

 「ああ。ここは、空がないからねぇ⋯⋯」


 あ。そうか!確かに、この町では観光客以外の鳥獣人たちを見かけなかった!しかも、その観光客だって鷲だとか鷹だとかの大獣人ばっかだったし。

 確かに神トンネルの天井は高いけど、所詮、土壁だしな。空を飛ぶのが大好きな鳥獣人じゃ、定住はできないか。

 エイベルは蝙蝠獣人だけど、前世の蝙蝠とは違って、洞窟が好きな習性なんてないし。


 「ん?」


 なんだが視線を感じてよく見ると、お婆さんの後ろから小さなモグランの子供たちが、顔を出していた。

 オレっちとエイベルをガン見している?なんで??







 ☆ 補足 ☆


 町営、アナナグラ仮眠所


 年中無休  24時間営業  トイレ・シャワー・目覚し時計、完備



 個室⋯三時間パック、2500ベルビー


 四人部屋⋯三時間パック、1600ベルビー


 大部屋、雑魚寝⋯三時間パック、800ベルビー


 一時間ごとの追加料金は、個室が1000ベルビー、四人部屋が600ベルビー、大部屋が400ベルビー


 メロス&セーラ、個室。どの部屋も暗室なので、ぐっすり眠れる。 

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