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第八十七話 オーダーメイド、カガリス

 熊獣人、獅子獣人などの大獣人の加護神像は勿論だが、犬獣人、猫獣人などの小獣人の加護神像なども数多くあり、陳列棚の目立つ位置に、ズラッと並べられていた。


 くそっ!メジャー神(像)どもめ!!(涙)


 と、悔し涙を流しても意味がないので、一度、気持ちを切り替えてみる。


 そうだ。この際、マリスたちの神、シィーマ・リース様の像に造花を付けて、なんちゃってカガリス像でも自作してみるか?

 そう思って、二十センチ程のシィーマ・リース像を手に取る。


 あ~⋯⋯ダメだ、こりゃ。


 どの像も木目がキチンと縞模様になってるから、コレに造花を付けたら、違和感がスゴい。そう、なんつーか⋯⋯古典的なオカッパ頭の日本人形に、西洋のドレスを着せるぐらいのおかしさ?


 それと同時に、ハッとした。


 この発想自体、ダメやんけ!!


 前世のオレっちならば、同じリス顔、リス体型なんだから別にかまわんだろうと、安易に考えただろう。しかし──今のオレっちは、それが加護種としてやってはいけないことだと、本能的に察した。


 ヤバかった。この像をリメイクしたら、それはつまり、シィーマ・リース神への冒涜になる!

 マリスたちに知られたら⋯⋯きっと、オレっちの小獣生は終わる!社会的に!!


 何故かって?


 それはだね⋯⋯加護種にとっての最大の禁忌は、それぞれの古き神々に対する不敬だからだよ!そう、例えばこーいう会話──

 

 『──✕✕✕の◯◯◯神って、ちょっとショボいよね〜?もっと尻尾を、太く長くするべきだよ!』

 『⋯⋯キミ、それは◯◯◯神の加護種である全ての✕✕✕を敵にまわすと言う事だよ?それに、キミ自身の小獣人としての品性を疑うね。──申し訳ないが、生涯、キミに会うことはもうないだろう。さようなら』


 ⋯ってなモンである。ふ~っ、危なかった!


 「⋯⋯ねえ」


 脳内で冷や汗をかいていたオレっちは、近くに人がいたことに、全然気づいていなかった。


 「もしかして、自分の加護神像を探してる?」


 背後からの声にビックリして後ろを振り返ると、水色の大きな一枚布があった。そこから視線を上に向けると、水色の布はエプロンだったことが分かる。

 そして、首を限界まで上向けると、視界に白熊さんの顔が──いや、白い毛の熊獣人の女性の顔があった。

 熊獣人らしく大柄だが、声音と同じ、優しそうな温和な顔立ちの人だった。


 「あなた、希少種のコね。え~と、え~と、カ、カガス⋯だっけ??」

 「いえ。カリスですけど」


 カガス⋯真ん中が違うだけで、鴉系の鳥獣人みたいな加護種名になるとは。新発見。


 「そうそう!カガリス神の加護種のカリス!アタシのじーちゃんが、昔、カガリス様の像をよく彫ってたの!」


 ⋯⋯まだ若い女性だから、この人のじーちゃんの時代でも、すでにカリスは少数派だったハズだけど?


 「でも、買う人って、そんなにいなかったでしょ?」

 「木像はね。まあ、本当は罰当たりだから大きな声では言えないけど、注文家具やインテリアのデザインとしては、ウルドラや人間の国では人気があってね。なんでも、可愛い上に華やかなお姿だから、見映えするのだそうよ。じーちゃんも細かい細工が好きだったから、花を彫るのが楽しかったみたい」


 本体よりも花⋯って、ことか。ま、竜人や元竜人からしてみれば、他所ン家の神様に派手でカワイイのがいるから、デザイン用で使ったろ!⋯ってな感じだったのかな?

 オレっち的には、別に良いような気もするけど。芸術品系ならね。

 でも、日用品に使われると⋯⋯嫌かなぁ。オレっち、カガリス様の下僕だし。主の品格が下がると、下僕の品格も下がるからな。安売りはされたくない。



 「でも、じーちゃんが亡くなってからは、家具を作らなくなって──アタシの父は、木工雑貨の職人だから。あ、でも像なら作ってあげられるよ。アタシも一応、彫刻家だし!」


 そっか。注文すればいいんだ。でも──


 「えーと⋯⋯旅行中なんで、手持ちのベルビーが、その⋯⋯」

 「材料費だけでいいわよ。正直、職人としては駆け出しだから、上手に彫れないかもしれないしね。セフィドラの木材だけだから⋯⋯1000ベルビーで、どう?」


 激安!!20センチ程度の像でも、8000ベルビーはするのに!


 「で、でも、もうすぐ出発するし──」

 「帰りに、またこの街に立ち寄ればいいだろ?」

 メロスがなぜか木製のステッキを片手に、割り込んできた。


 「⋯⋯じゃあ、私もこの像は帰りに買おうかしら?今買うと、荷物になるしね」

 ラブリット神だと思われる像を大切そうに抱えたまま、セーラが近づいてくる。


 「じゃあ、それは取り置きしておいてあげるよ。他にも無い?」

 「あ~、じゃあ〜僕も〜、この木製食器を〜」

 エイベルは、セットで揃えたスープ皿とスプーンを出した。


 「じゃあ⋯⋯お言葉に甘えて。でも、さすがに1000ベルビーだと少なすぎるんで、もう少し高くてもいいんですケド」

 オレっちは、白熊姉さんを見上げた。


 「いいよ、いい!──あなたを見ていると、昔、じーちゃんが彫ってたカガリス様の像を思い出すから。だから──なんだか急に作りたくなって⋯⋯趣味で彫る感じだから、気を遣わないで!じゃあ、ちょっと、帰りの日程を教えてもらえるかな⋯?」






 ◇◇◇◇◇


 「タロス〜、よかったね〜。カガリス様の像〜作ってもらえて〜」

 「うん。でも、こーいう時は、マイナーな加護種って損だよな。皆が羨ましいよ」

 「そうだな。普通に買えるし、種類(ポーズ)も多いから選べるしな」

 あっさりというメロスには、悪意が無い。良く言えば、天然。悪く言えば、ただの空気を読めない男。


 空気を読めない男といえば、かつてのオレっちもそうだったけど。

 前世の友達が珍しい苗字の持ち主で『俺って、ハンコとかも注文して彫ってもらうんだぜ。そこらの100均で買えるお前らが羨ましいよ』って、愚痴ってた時、オレっちは、こう返した。


 『ふーん。大変だな。オレなんて、✕✕だからハンコどころか、表札とかもその場で買えるぞ!』と。


 ゴメンよ、名前どころか顔さえ思い出せない、□□君。オレっち、今になって、無神経だったその報いを受けとりますがな。



 「よし、ラモグラン道に戻るぞ!」

 「はぁ。また、あの発光する土壁しかない風景なのね⋯⋯」

 「寝たら〜気にならないよ〜?」

 「だな。次は、オレも寝る。仮眠しとかないと地下都市見学の前に、寝落ちしちゃうからな!」


 夏だから夕方でもまだ明るいけど、今から地下に移動して魔馬車に乗ると、アッチに着くのは三時間後──夜の8時頃ぐらいになるだろう。

 多分、飲食店は24時間営業ばかりだろうから、とりあえず食事して、そこから観光すればいいか。


 ウルドラム大陸のどの地下都市も、基本的にはモグランたちによって造られた街だから面白そうだし。

 それに、中継地というよりは、観光地としての方が有名だしな。楽しみだ! 

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