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第八十六話 葬送の儀〜加護種の死生観

 ポラリス・スタージャーの街──ラモグラン()獣道・東の中継地点、ツンドゥーラは、熊獣人が多い街だった。


 身長が100センチもないオレっち、エイベル、セーラ、ギリであるメロスも、彼らの中では大獣人の子供よりも幼く見えるだろう。

 ウルドラの聖竜都でもそうだったが、大獣人の方が標準体型的に横幅があり、圧迫感があった。


 「⋯アレ?サイズ、間違ってないですか!?」


 露店で買ったオレンジジュースは、スモールサイズで注文したのに、ラージサイズに近いカップを渡される。

 「いんや、コレが小だよ。ああ、でも、小獣国のサイズだと、もう少し小さいんだっけ?」

 赤毛の熊獣人のおっさんが、首を傾げながら答えてくれた。


 いや、もう少しどころか、コレの半分ぐらいですけど!


 「大獣国だとコレが普通なのさ。体がデカいから、飲む量も多いんだ」

 チューっと、葡萄ジュースをストローで吸い上げながら、メロスが言った。


 「ということは、食べ物なんかも⋯⋯」

 去年の聖竜都観光でも飲食店の料理の量が、ビスケス・モビルケの倍ぐらいあったのを思い出す。


 「多いな。特に肉、魚の消費がハンパじゃねぇ」

 「そもそも気候の問題で、野菜類は育ちにくいのよね。麦や蕎麦なんかは、大規模に作ってるけど」

 セーラが、林檎ジュースを片手にそう言うと、エイベルがレモンソーダから口を離して、頷いた。


 「ウチの商会も〜、大獣国に〜野菜を売ってるもんね〜」


 そうそう。結構な量で取り引きしてて、アッチからは家畜、野生の両方の魔獣肉とかセフィドラの木材だとかを大量輸入してたっけ。(針葉樹は、木目が綺麗だから)

 そーいえば、この街中にはセフィドラの木が無いな。獣人だから都会でも木が無いと落ち着かないもんだが。

 実際、聖竜都の中心部では半日過ぎた時点で、ソワソワしてしまった。郊外のアントムさんの家近くは緑が多かったから、そうでもなかったんだけど。


 「セフィドラの木って、都市部には無いの?」

 「あるさ。この街は、セフィドラの大森林に囲まれた街なんだぜ?この下にラモグラン大獣道があったからこそ、中継地点として、そのど真ん中に作られたのさ!」

 「キュ!?」


 つまり⋯⋯開拓したってこと!?あっ、モグランたちか!彼らが上に穴を開けて、出入り口を作ったのか!!


 「かなりの大事業だったらしいぜ。あのトンネルの壁は、ラモグラン神の加護種であるモグランでしか穴を開けられない。だから、統一国時代、モグランたちのほとんどが、こうした工事に関わってたって話だ」

 

 ラモグラン道あるところに、モグランあり──だもんね。

 それに、なんと言っても、ウルドラム大陸の地下工事には絶対に必要な人材だからな。

 ウチの旦那様の商会でも、大規模な地下工事が必要な仕事だと、モグランの親方兼社長がお屋敷に来てたもんね。

 新規の上下水道、人工トンネルの掘削やメンテナンス──『土魔法』や『穴』に関しては、他の加護種でも同様の能力を持つ者もいるけど、メロスの言った通り、ラモグラン道──神トンネル関係では、彼らしか頼れない。

 まだ全ルートが解明されていない神トンネルは、どの国の地下にもあり、そこの壁にぶち当たると工事がストップする事もあるから、尚更だ。


 モグランたちは小獣人だけど、大陸中の地下都市に分散してるから、実は人間の国の地下にもいるんだよね。地下中心だから地表にはあまり出ないみたいだけど。


 「この街は、小獣国向けのセフィドラの家具を一番多く輸出しているから職人が多い。木彫りの土産物なんかも種類が豊富だから、見ておくか?」

 「木彫りの像〜、見てみたい〜!」

 「私も!──ラブリット神様の像があれば、じーちゃんのお土産にしたいし!」


 セーラのお祖父さんは、兎獣人のラブリなのか。なるほど、温厚そうな感じがする。こういう人が本気で怒った時は、普段のギャップで衝撃を受けるから、めっちゃ怖いんだよな。そのおかげで、セーラは旅立てたんだけど。

 カガリス様の像は──うん、無いな。それにあったとしても、その像を家に飾って仏壇みたいに拝むのも⋯⋯なんだかな。


 「まあ、死んだ時には、必要だしな」


 ⋯⋯ハイ?


 「し、死んだ時に、なんで神様の像が必要なの!?」

 「タロス〜、知らなかったの〜!?」

 え。エイベル、知ってるの!?


 「死者の棺に神の像を入れるのは、それぞれの加護神の元に、能力(ちから)を還すという意味があるからだ」

 ストローをいじりながら、メロスは言った。


 「もうちょっと、詳しく!」

 意味が分からん!


 「死んだら、私たちの魂は産まれる前の世界に還るんだけど、その時に、古き神々の世界に立ち寄って、それまでの加護の御礼と能力の返還をするって、昔から言われてるの。像はね、そのための道しるべなの。そのお姿の神様の元に導いてくれるのよ」

 大雑把なメロスの言葉を、セーラが詳細に説明してくれた。


 ガーン!知らんかった!!

 家には一体もカガリス様の像なんて無かったし、周りに亡くなった人もいなかったから──かーちゃんからも、聞いたことないし!

 まあ、かーちゃんは身内とは絶縁してるみたいだから、ジーさん、バーさんもいなかったしな。そーいう意味では、そこそこのお歳である執事さんの孫のエイベルが知っていても、おかしくはないか。(万が一を考えて)


 「そうか⋯⋯結局、像も燃やすんだ」


 昔から古き神々の加護種たちの屍は、火葬にされる。炎の神殿と呼ばれる施設で、あっという間に灰にされるのだ。

 モグラン先──いや、モブラン先生の話では、炎の神殿は、火魔法の上位スキルを持つ神官様たちが管理しているとのこと。その際に、神の像の話が出なかったのは、多分、皆が知っている話だからだと、省略したのかもしれない。


 いや、モブラン先生!ここに無知が一人、おったんですケド!!



 「もちろんそうだ。像も死体も灰にされて、山や海に撒かれる」

 メロスの言う通り、古き神々の加護種の国々には、墓というものが存在しない。その理由は、過去に存命だった半神様たちが、自らの遺体を遺すことを禁じたからだ。


 『我らの身は、髪の毛一本たりともこの世界に遺してはならぬ』⋯と。


 その後の賢者様方や加護種たちもそれに習い、火葬で灰になることを選んだ。

 前世の記憶があるオレっちには、その理由がなんとなく解った。

 半神様たちは子孫以外の神の因子を、この世界に残すわけにはいかなかったのだ。つまり、その当時から複製技術(クローン)、あるいはネクロマンサー的なスキル持ちを警戒していた⋯ということになる。


 一方で、火葬の慣習のない竜人たちは、死後、砂漠に埋葬されると聞く。

 ただ、竜賢者様に関しては分からない。葬儀は盛大に行われるらしいが、埋葬云々の話は聞かないからだ。

 ちなみに、人間の国でも砂漠に面した国は、ウルドラと同じように砂漠葬らしい。しかし、そうでない国は、土葬だという。


 葬送方法はともかく、前世との大きな違いは、死者に対しては祈らない⋯という点だろうか。各国にある神殿は、神々に加護の感謝をする場であって、死者に対する祈りの場ではないのだ。

 それは多分、オレっちたち古き神々の加護種の死生観に原因があるからだろう。なんせ──


 死ぬ→産まれる以前の場所に戻る→また産まれる(この繰り返し)


 『魂もまた、消耗するものだ。とことん使われ、最期には滅する。それは我らも同じ。刻の感覚が違うだけだ。だが、邪悪な魂が行き着くという最下位世界は、魂の消耗度が恐ろしく激しい。いわゆる、『地獄』という世界だからな』


 どこぞの神様がぶっちゃけたおかげで、悪人は地獄という名の最下位世界に墜ち、魂が滅するのが早い──という概念が生まれ、加護種たちに恐怖を植えつけた。

 やがてそれは、『嘘をついたり悪いことをすると地獄(最下位世界)に落とされるぞ!』となり、逆に、『善いことをすると天国(神々のいる最上位世界)に迎えられるぞ!』となっていった。


 なんか仏教に似てる感じだが、魂にも格付けがあるのは、確かなんだろう。

 そうそう。仏教で思い出したが、ここで重要なポイントが一つ。


 加護種は、始祖たちが直で神々と加護契約していたもんだから、人を介しての神の教え──つまり、宗教つーもんが存在しない。しかし、先の通り、天国や地獄といった概念はある。

 つまり、古き神々は、暗黒期以前の古代文明の概念の幾つかをそのまんま引き継いだ⋯⋯という事だ。

 実際にそうだからなのか、人の想像力を面白がったのか──こればかりは、分かんないケドね。






 ◇◇◇◇◇


 「よし、じゃあ行くぞ!職人が直接売ってる店もあるから、そっちから見るぞ!」

 メロスはサッサと歩き出し、オレっちたちは早歩きで、せっかち猫の高く持ち上げた二尾の後を追った。


 その通りは、オレっちたちと同じように、セフィドラ製の家具や食器、像を買いに来た大小の獣人たちで、ごった返していた。

 どの店も、木製の商品がところ狭しと並べられている。店頭には、木目が美しい食器類が多かった。

 古き神々の木像のサイズも様々だ。オレっちたちよりも遥かに大きい像、掌サイズの小さい像──でも、やっぱ無いんだよね、カガリス様。


 分かっちゃいたけど、ヘコむなぁ⋯⋯ 





 ☆ 補足 ☆


 セフィドラは木目は美しいですが、ウルドラシルと比べて柔らかく傷がつきやすいので、家具にしても像にしても、透明な魔法液で塗装され、表面強化されています。

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