第八十五話 目力の強い猫は、成長している
ドドドドドド!ドドドドドド!
一番人気のマジューバー・エースチーム、マジューバー・キングチームに大差をつけて、コーナーを周った!おおっと、外側からマジューバー・クィーンチームが──
⋯⋯って、直線だからコーナーも何も無いんだけど。
暇だ。魔馬車内は広いけど満員だし、外の景色はといえば、ずーっと壁──発光してる不思議な土壁しかない。
この壁は、ラモグラン神の神器──聖遺物で発光してるらしいけど、実際、それがどこに設置されて、どう動いているかなんて誰も知らない。数万年もの間そうだったから、少しは気になっても、それを見つけ出そうとは誰も思わなかったらしい。
いや、それを見たいと願う加護種はいたな。
ラモグラン神の眷属である、モグランたちだ。
ラモグラン神は、自身の加護種である彼らにさえ、それを管理させようとはしなかった。モグランたちも土魔法や土系スキルに特化しているが、未だに発見できてはいない。
「暇だな⋯⋯」
「寝てろ」
「退屈だわ」
「寝てろ」
「グ〜⋯」
「寝てるな」
大型魔馬車の右側の四列席に、四人並んで座れたのはいいが、さすがに一時間も経つと喋るネタも尽きてきた。話題にしたい外の風景が、光る土壁しか無いからな。
向かい側の四列席、前後の席──いや、この魔馬車内の全席が、静まりかえっていた。乗客たちの大半は、エイベルのように寝ている。
オレっちも座席が少し大きめだから、尻尾穴に尻尾を通した後、腰掛けるというよりも寝そべる体勢で、ボーっとしていた。
気温の方も、密集しているからか寒くはない。オレっち並みの夏毛を持つ者にはちょうど良い気温と言えよう。
それとも、この壁から発している光には、冷気を緩和する作用でもあるのだろうか?
「眠れん⋯⋯」
「あと一時間もすれば、地上に出れる街に着く。そこで降りて観光でもするか?その後、別の魔馬車に乗り換えて、再出発してもいいぞ?」
おめめパッチリのオレっちに、メロスが訊ねてきた。
運賃は支払済。印章魔法登録しているから外に出てもトンネル内に戻れば、また魔馬車に乗車できる。
「でも、時間が⋯⋯」
「心配するな。予定より一日遅れても、ウチは誰も気にしない。歓迎パーティーは、後日になるだろうが」
⋯⋯歓迎パーティー、開いてくれるんだ。
オレっちの脳裏に、歓迎してくれる獅子一家の姿が浮かぶ。大獣人って体が大きいから、間違って吹き飛ばされるかも⋯⋯。
「それに、その街の次は、地下都市『アナナグラ』まで停まらない。オレはいつもその街で最後の腹ごしらえしてから、再出発するんだ。あとは魔馬車で寝ていれば、勝手に着く」
「地下都市!!」
寝そべる体勢から、ガバっと上半身を持ち上げた。
地下都市はウルドラム大陸に幾つかあるが、オレっちはまだ行ったことがなかった。というのも、地下都市はラモグラン小獣道──神トンネルの中にしかないからだ。
でも、いつかは行ってみたいと思ってたんだ。有名な観光地の一つだし。
「そうね。ちょっと気晴らししたいわ。それに、そこもポラリス・スタージャーの街でしょ?観光しましょうよ!」
セーラが、弾んだ声を上げた。いや、それはわかる、分かるけど──
「トイレ休憩だけして、アナナグラまで行こう!そこで観光すれば良くない!?」
「少しは陽の光を浴びましょうよ!地下都市だと、壁の光だけなんだから!!」
寝ているエイベルを挟んで、オレっちとセーラが言い合う。通路側席にいるメロスが、ジト目で睨んだ。
「エイベルが起きるから、やめろ。別に、次の街で観光しても、その次にアナナグラを観光すればいい話だろうが。トンネル内の魔馬車は、24時間運営なんだから!」
「キュ!」「あっ!」
忘れてた。何時でも乗れるんだっけ。でも、ソレだとアナナグラ観光が夜に──アレ?地下都市って確か──あ、コッチも24時間運営だった!小獣国のダンジョン一階層と同じだったわ!(アッチも、昼しかない)
「ゴメン、セーラ。オレ、どーしても早く地下都市を観たくって⋯⋯」
「いいのよ。私も初めての旅行だから、興奮してて⋯⋯」
オレっちたちは和解した。
◇◇◇◇◇
タッタッタ!
一部の乗客とともに魔馬車から降りて、小型昇降機で上層階へと昇り、地上前の階段を一気に駆け上った。
「暑っ!」
真夏の暑い風を感じた時、急いで建物の影へと避難する。冷却魔法具、冷却魔法具!スイッチ、オン!
「いや〜、暑いけど、風景があるっていいなぁ〜!」
「ホントよね。できるなら、もうあの壁は見たくないんだけど⋯⋯無理だしね」
セーラが白いショールを外しながら、苦笑する。
「そう〜?魔馬車の揺れが〜気持ち良くって〜よく〜眠れたけど〜?」
うん。エイベルは、オレっちとセーラの言い合いにも反応しないぐらいよく寝てたよな。つーか、いつの間に、上下の服を脱いだの!?(すでに、夏ベスト姿)
「オレも、いつもなら寝てるな。だが今回は、旅の引率者だからな。何かあった時の為に起きてたんだが⋯⋯正解だったな」
オレっちとセーラは、沈黙した。
「メロスは〜、スゴイね〜。いつも一人で〜こんな旅をしてるんだ〜」
「そうだな。一人旅は危険だ。スリや置き引き、あと、子供一人だと思って、拐おうとする奴らもいる」
いや、メロス!ソレって普通に危ねーよ!?
「家族の人に迎えにきてもらった方がよくない?危ないわ!」
セーラの言葉で思い出した。確かメロスって、過保護っ子だったような⋯⋯
「最初はそうだった。でも、オレには火炎爪があるし、魔法も得意だ。それに、危ない通りには行かないし、寝る時も耳を立てて寝ている。熟睡はしてない。それに──父さんも母さんも⋯姉さんも、暇じゃないんだ」
メロス!!もともと気が強かったけど、別の意味でも強くなってたんだな!まあ、冷静だし、洞察力もあったから、素質はあったんだけど。
「とにかく、サッサと観光するぞ!」
オレっちたちに背を向け、颯爽と前を歩いて行く。二本の尾を、高く高く上げながら。
いやー、ホントに素直じゃないよね。このツンデレ猫は!




