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第八十四話 神トンネルはレース場?

 「よ~し、飛び降りるぞっ!」


 アモリンの飛行所近くまで鳥浮船が移動すると、オレっち、セーラ、メロスがそれぞれの色の傘を持って宙へと舞い、最後にエイベルが飛び立つ。

 黄色の魔法具傘に持ち上げられたまま後ろを振り返って見ると、他の乗客たちも、次々に鳥浮船の甲板から飛び降りていた。


 よしっ!──今回は、一番乗りだな!


 国内便での儀式のように、オレっちはこの飛び降りイベントにこだわっていた。

 前回の夏の帰国便では、一歩及ばず、青毛のタヌキ獣人のオッサンに先を越された。

 オレっちは学んだ──少しでも躊躇したら、負けなのだと!!


 だから今回、セーラとメロスを道連れに『少し早いかもしれないが、多分、何とかなるだろう距離』で、飛び降りた。正解だった。

 しかし⋯⋯少しばかり発着場から離れ過ぎていたようだ。

 結果、飛行距離を伸ばすため風魔法を使い過ぎて、MPを半分ほど消費してしまった。エイベルはセーラの補助をしていたのでそれ以上に消耗し、最後は蛇行しながら着地していた。


 メロスには無言で睨まれ、セーラはエイベルにお礼を言いまくっていた。スマン。先走り過ぎました!





 ◇◇◇◇◇


 「う〜む⋯⋯見事に、畑ばっかだな」


 バリ、ボリ。

 鳥浮船内で空弁⋯牡蠣フライ弁当を食べたので腹は満たされていたが、別腹でおやつの塩せんべいを齧る。齧りながら、アモリン市内にあるラモグラン小獣道──略して神トンネル──までの道を、乗合魔牛車の車窓から眺めていた。

 ビスケス・モビルケ内だからウルドラシルの巨木群は当たり前として、めっさ、のどか──要するに、田畑ばかりの田舎の風景だった。


 「あれは⋯⋯果物の木ね、きっと」

 セーラがボソッと呟く。


 遠方に、均等に植えられた低木が見えた。果物の木?あ、もしかしてリンゴの木かな?それっぽい。

 しばらくすると、それらも見えなくなった。


 「キュ?」

 「なんだか、さっきまでと全然違わない?」

 「いきなり〜都会に〜なった〜?」


 小一時間程移動しただけなのに、周囲の景色が一変する。

 ここだけ見ると、マルガナの街中みたい。大きな建物が多いし、道沿いにも人が溢れていて、喧騒がすごい。すれ違った何台もの魔牛車には、コレでもかというぐらいの量の荷物が積み込まれていた。


 「ラモグラン小獣道は、国の直営トンネルだからな。街中は、結構賑わってるんだ。大獣人が多く入国する場所だし、ポラリス・スタージャーとの交易の最大拠点だからな!」


 まあ、鳥浮船にも魔牛車にも、たくさんの大獣人たちが乗ってたし。小獣人の商売人たちも、周辺の町から集まってるみたいだしね。きっと、ウチの旦那様の商店の支店なんかもあるんだろうな〜。


 「よし、行くぞ!」


 魔牛車から降りた途端、メロスが慣れた様子で、街中を歩き出した。そして、地下へと続く広い階段前で、ピタッと止まる。


 「⋯⋯地下は冷えるから、冷却魔法具は切っておけ」

 「え?そんなに寒いの?」

 セーラが驚いていた。夏なのになんで?って思ったんだろう。

 「一番底は、かなり気温が低い。夏場でも冷えるんだ」


 オレっちは前世の記憶があるから、察しがついていた。

 夏場に鍾乳洞に入った者ならば誰もが体感する、あの温度差──夏と冬のダブルパンチ。

 う〜む。オレっちの夏毛は、その冷気に耐えられるだろうか?一応、滅多に着ない長袖とズボンは持ってきたのだが。(メロスが用意しとけと言ってたから)


 「僕は〜皆より短毛だから〜用意しておくね〜!」


 エイベルは、キャメル色のリュックから、紫色の長袖と黒のスラックスを取り出した。それを見たセーラも、いそいそと白いショールをピンク鞄から出している。

 オレっちはとりあえず、夏物ベストのまんま。メロスもまんまだし、案外、大丈夫なのかも。



 長い階段を下り終えると、次は昇降機でさらに地下へと降りていった。どんだけ深いねん。

 確かに冷えてはきたけど⋯⋯人が多いし、風がないからそんなには寒く感じないな、うん。





 ◇◇◇◇◇


 「⋯⋯スゲー⋯⋯」

 「壮観ね⋯⋯地下なのに、明るいし」

 「こんな数の馬魔獣〜、初めて見た〜!」


 土壁全体から発せられる淡いオレンジっぽい光が、縦にも横にも広い──広過ぎる地下空洞を明るく照らしていた。そして、その地面には白い石畳と黒い石畳が敷かれた道が、何本もあった。


 ざっと見、白が四本、黒が六、七本の十車線以上の道だ。そのどれもが、先の見えない直線コースになっていた。

 そして、そのコース上で待機している十数頭もの馬魔獣たち(さすが国営!)と、同じく出し入れされている数台の大型の馬車。


 オレっちたちが降りてきた昇降機も複数あり、それより大型の昇降機も、向かい側にたくさん設置されていた。その周辺に置かれていた荷物の多さに、ビックリする。

 小売り業の商人たちの多くは大容量の魔法鞄(マジックバッグ)を持っていないので、これらはそのまま地上で仕分けされて、何台もの魔牛車で運ばれるのだろう。



 「ハッ!」

 『ブルルルッ!』

 カッカッ──ドドドドドド!


 小型昇降機近くに停まっていた四頭立ての魔馬車が、出発した。あっという間に駆けて行き、視界から消える。そして、次の魔馬車が、スタート地点に用意されていた。

 出たり入ったり──どの車線も、魔馬車と乗り降りする人々で混雑していた。

 驚きつつ観察していると、貨物専用の魔馬車と、乗合魔馬車の位置が違うことに気づく。貨物専用は大型昇降機に近い向こう側。乗合魔馬車は、人専用の小型昇降機があるこちら側──。

 どうやら、白い石畳が乗合馬車用車線で、黒い石畳が貨物専用車線らしい。

 明らかに、黒い石畳の方が本数が多いので、人の行き来より貨物の量の方が多いということが分かる。


 「ほら、ボサッとするな。さっさと乗り込むぞ!」

 メロスの言葉に、オレっちは戸惑った。


 「ど、どの車線(コース)!?」


 「どこも同じだ。最終的には、ポラリス・スタージャーのユーロシアンって街に着く。乗合魔馬車は、こっち側の四列しかないから、早く並べ!」

 メロスは、即座に一番人数の少ない列に並び、オレっちたちを手招きした。


 人の列がどんどん魔馬車に吸い込まれ、満員になると、即、出発する。そして、次の魔馬車が用意されて新たな列を吸い込み、また出発。

 到着する魔馬車も乗客が全員降りると、新たな馬魔獣に交代させて、スタンバイ。


 二台の乗合魔馬車が同時にスタートすることもあって、競馬場のコースみたいな感じになる。

 しかも、なんとなく馬魔獣同士で闘志を燃やしている気もするんだけど。いや、だからこそ速いのか。


 なんか気になったので、一頭の馬魔獣のステータスを確認してみる。

 案の定、HPは高い。MPは少ないが爆速スキル持ちなので、最低限の風魔法でもいい感じに走れるらしい。

 ふ~ん⋯⋯牝馬の方が魔法レベルが高いんだ。え!?寿命が違うの!?牝馬が100歳前後で、牡馬が70歳前後!?差があり過ぎない?

 しかも、馬魔獣って、牝馬が群れのリーダーになるんだ〜。⋯⋯なんか、魔獣のステータス画面って⋯⋯動物図鑑に近くない?

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