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第九話 カリスの愛は花冠と共に

 後日、オレっちはさらに世界を識るため、かーちゃんに地図をねだった。


 「あら。そんなの私が描いてあげるわ」


 そう言ってかーちゃんは、オレっち愛用のらくがき帳に、黒ペンで下描きもなしに手早く描いていく。ちなみに、紙もペンも原材料こそ前世とはまったく違うが、物としては同じである。


 「ふう。こんなものね。ほら、小獣国──ビスケス・モビルケはここね」


 かーちゃんが赤ペンで丸を付けた国は、ジャガイモの形をしていた。いや、なんつーか⋯地図全体の締まりの無いヘロヘロ感がスゴい。オレっちの冒険心が消え失せるほどのマイナス画力。

 かーちゃん、字はキレイになのに⋯。まあ思い当たることは多々ある。

 裁縫でも、かーちゃんは、ふつーの縫い物は職人並みに上手い。なのに、創作系──既製品がない(需要がないの意)カリスの縫いぐるみを、オレっちの三歳の誕生日に手作りしてプレゼントくれたのだが、渡されたモノは、鼻先が微妙に尖った白いネズミにしか見えなかった。

 要するに、かーちゃんには美術的なセンスがないのだ。本人にその自覚はないけどな。


 小遣い貯めて、自分で地図を買おう。うん。

 

 「中央の一番大きな国が、竜人の国、ウルドラ。大陸の北側は、大型獣人の国、ポラリス・スタージャーが大部分を占めているのよ」


 大陸の国々は、竜人国──ウルドラを中心とした配置になっており、彼の国を除くその全てが海に面していた。

 ホントにグルっと囲いこんでる形なんだな。ってことは、ウルドラとの国境が、呪いの境目になってるってことか?

 小獣国、ビスケス・モビルケの隣国は、ウルドラとポラリス・スタージャーと──ん?ここはどこの国だろう?


 「かーちゃん、ここは?」


 南北に広がる領土──に見えるヘロい長方形を指差す。

 「加護を失った元竜人──今は人間って呼ばれている者たちの国の一つで、ネーヴァって国よ。そもそも人間の国は内輪もめが多くて、国の数が2つだったり3つになったりして、小獣国との交流もあったりなかったりするから、お互いの行き来がほとんど無いのよね。ああ、でも、お屋敷に招待された方ならいたかもしないわ」


 そうか。本館の方なら人型を見るチャンスが──ん?そういえば──

 「かーちゃん。人間と加護人ってどう見分けるのさ?」

 「⋯⋯見分ける?」

 かーちゃんが不思議そうに紫の瞳を見開いて、首を傾げる。

 「そうね―、タロスも彼らに会ったら分かるわ。すぐに判別がつくから」

 会えば分かる?あ。匂いかな?オレっちたち鼻が利くし。多分、加護人はいい匂いがして、人間は無臭って感じ?匂いって言えば──


 「そーいえば、かーちゃんっていつもいい匂いがするけど、どんな香水つけてんの?」


 かーちゃんの匂いは、少しだけ甘いフワッとした華やかさがある──ん~⋯前世では嗅いだことのない匂いなんだよな。

 「香水?フフ、そうじゃないわ、タロス。それは母さんの花冠の香りよ」

 「かーちゃんの花?」

 反射的にかーちゃんの頭上を見上げる。

 美人だけど控え目なかーちゃんらしい、パッと見は目立つけど野草的な自然の優しさが感じられる水色の──海辺の花、ハマヒルガオに似た花冠は、いつだって皆の視線を集めている。


 「カリスの花冠はね、花の種類もそうだけど、匂いもそれぞれの個性が出るのよ。でも、一番の特性は、この花が特級ポーションの原料の1つだと言うこと」

 かーちゃんの爆弾発言に、オレっちは固まった。


 と、と、特級ポーションですと!?もしかして欠損とか治せるアレ!?

 「カリスの加護神であるカガリス様の花は、死者をも蘇らせることのできる神薬だと言われていてね。その影響か、私たちの花にも再生効果があるの」 

 オレっちの尻尾がブワっと膨らむ。恐怖と不安で。

 「⋯もしかしてオレっちたち、狙われてる?ヤバくない??」

 動揺し過ぎて、つい心の声が洩れてしまった。だって、頭上にめっちゃヤバイもんが生えてんだよ!?魔法紙幣を頭に乗せてるようなモンなんだよ!?

 一攫千金目当ての強盗さんのニヤニヤした(ツラ)が頭に浮かぶ。


 「大丈夫。カリスの花は、カリスにしか切りとることができないから。私たちだけじゃないわ。身体に薬効を持つ加護持ちは古き神の護りを持っているから、その部分を他者が強引に手にすることはできないのよ。それに、私たちの花を材料にしなくても、特級ポーションは造れるの。ただ、少しばかり効力に違いは出るみたいだけど」


 そうなんだ。⋯そうか。だからかーちゃんは、とーちゃんの花を『慰謝料』として切り取ったんだ。納得。

 でも、あの10輪の花を売ったんなら、ここで住み込みメイドなんかしなくっても、贅沢三昧で暮らせたんじゃないの?


 「ねぇねぇ、とーちゃんの花は売らなかったの?」

 幼児にしては大人びた損得勘定な問いに、かーちゃんは苦笑しながら答えた。

 「2本はすぐに売ったわよ。新しい魔法鞄(マジックバッグ)が欲しかったから。あの人の鞄は容量はともかく、時間停止が付与されてない物だったから。今持ってるコレ、時間停止付きの高級品なのよ」

 かーちゃんは、肌身はなさずいつでもたすき掛けしている魔法鞄を、ポンポンと軽く叩く。

 ⋯⋯アレって、とーちゃんのじゃなくて買い替えたやつだったんだ。道理で長年使い込んでる割にはキレイな革だよな、とは思ってたんだよね。


 「古いのを下取りしてもらったから少しは安く手に入ったけど、それでも1本分じゃ足りなかったの。容量も多めの物にしたから、欲張りすぎたのよね。だけど、やっぱり買い替えてよかったわ」

 「──なんで全部売らなかったの?売ったら家だって買えたし、働かなくても良かったんじゃない?」

 「⋯⋯カリスの花はね、タロス。1度切ってしまうと、次に咲くまで20年から30年は掛かるの。しかも花が無い状態だと魔法も最低限しか使えないのよ」

 「キュ!?」


 あの前世の記憶が戻った修羅場から、まだ5年ぐらいしか経っていない。自業自得とはいえ、とーちゃんの受けた制裁は、オレっちが考えていたよりもずーっと重いものだった。


 「そもそも私たちが花を切るのは、大切な人の回復の為に使う時や経済的に困窮した時だけ。カリスが沢山いた昔は花冠の本数も多かったし、4、5本ぐらいはよく売っていたらしいわ。でも、若い時から働きもせずそんな暮らしをしていたら、老いた時にはもうどうにもならなくものなのよ。花は200歳前後から生え替わらなくなってしまうのに、浪費癖が治らなくて惨めな老後を迎えた者たちもいたと聞くわ」


 そうなんだ。オレっちたちの花冠って、人間の髪の毛みたいなもんなんだ──ハゲか金かのヤバイ選択。


 「だから、安易にお金になるとかは考えては駄目よ。魔法だって本来の花の数があってこそ、100%の力が出るものなのだから」

 「うん!解ったよ、かーちゃん!」

 「フフ。お父さんとは暮らせなかったけど、あの人がくれたものは、タロスの将来にきっと役立つわ。だから、この魔法鞄の中の花はこのままにしておくわね」


 オレっちの将来。そうだね。人生山あり谷あり──何が起こるか分かんないもんね。かーちゃんの言う通り、いざって時には遠慮なく換金させてもらうよ。とーちゃん⋯⋯前払いの養育費、ごっつあんです!!






 ☆ オマケ情報 ☆


 加護種の中には神の祝福効果を体の表面に持つ者がいます。カリスの花冠のその一つで、他にも体にキノコが生えている者や宝石を持つ者などもいます。

 獣人だけではなく加護を受けている者たち全ての中に存在するので、これからのエピソードの中に少しずつ入れていく予定です。


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